ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

感想

中上 健次著 枯木灘

中上 健次著 枯木灘 和歌山の枯木灘と呼ばれる土地を舞台に、複雑な地縁と血縁の関係に縛られた青年秋幸をめぐる半自伝的小説。秋幸サーガ三部作の二作目ということなので、本当は一作目の岬から読んだ方がいいのだろうけど、枯木灘単体で読んでも完結はして…

J.D.サリンジャー著 村上 春樹訳 キャッチャー・イン・ザ・ライ

J.D.サリンジャー著 村上 春樹訳 キャッチャー・イン・ザ・ライ 十数年振りに訳を変えて再読。春樹訳は大分マイルドで読みやすい感じ。再読といっても細かいことは全然覚えてなかったのでほぼ初読といっていいぐらい。 青春小説の常として、十代の頃に読ん…

ルイ=フェルディナン・セリーヌ著 生田耕作訳 夜の果てへの旅

ルイ=フェルディナン・セリーヌ著 生田耕作訳 夜の果てへの旅 様々な物議をかもした問題作家セリーヌによる、青年医師フェルディナン・バルダミュの幻滅に満ちた遍歴を描く半自伝的小説。 やたらと辛そうな前評判、独特かつ饒舌な文体、上下二巻本、これは確…

アゴタ・クリストフ著 堀茂樹訳  悪童日記

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)作者: アゴタクリストフ,Agota Kristof,堀茂樹出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2001/05/01メディア: 文庫購入: 100人 クリック: 3,630回この商品を含むブログ (276件) を見るアゴタ・クリストフ著 堀茂樹訳 悪童日記 傑作と聞き…

M.バルガス=リョサ著 木村榮一訳 緑の家

M.バルガス=リョサ著 木村榮一訳 緑の家緑の家(上) (岩波文庫)緑の家(下) (岩波文庫) ペルーの密林と砂漠を舞台に、複数の物語が時系列もばらばらに目まぐるしく切り替わりながら縦横無尽に展開していく。ピウラの町の外れ、砂漠に建てられた娼家「緑の…

伊藤 計劃  ハーモニー

伊藤 計劃 ハーモニーハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA) 「大災禍」という世界的危機以降、人類は人命・健康を何よりも優先し病気のないユートピアを築き上げた。善意に溢れたというよりも善意しか許されない、個々人の生命は社会的リソースとして大事に…

フリオ・リャマサーレス著  木村 榮一訳 黄色い雨

フリオ・リャマサーレス著 木村 榮一訳 黄色い雨黄色い雨 (河出文庫) スペインの山奥の廃村アイニェーリェ村、かつての村人がみな逃げるように去った後もただひとり村にとどまった男の孤独な日々。飾らない静かな文章から滲み出すのは死と狂気の気配、狂気と…

高山 宏 殺す・集める・読む / 小栗 虫太郎 黒死館殺人事件

高山 宏 殺す・集める・読む殺す・集める・読む―推理小説特殊講義 (創元ライブラリ) ホームズ、チェスタトン、クリスティらの錚々たる作品に文化史的視点から新たな光をあてるミステリ論。たとえばホームズを世紀末的感性から見つめ直した時、彼らの華麗な冒…

レイナルド・アレナス著 安藤哲行訳 夜明け前のセレスティーノ

夜明け前のセレスティーノ (文学の冒険シリーズ)レイナルド・アレナス著 安藤哲行訳 夜明け前のセレスティーノ 母は井戸に飛び込み、祖父は斧を振りかざし、いとこのセレスティーノは木という木に詩をきざむ。村からはのけものにされ、貧しさと憎しみが吹き…

カルヴィーノ作 和田忠彦訳 パロマー

パロマー (岩波文庫)カルヴィーノ作 和田忠彦訳 パロマー 波や女性の胸や星空や、様々なものを観察しては考察し自分と宇宙との関係を模索する中年男性パロマー氏。いわば彼の観察日記のような27の短篇がそれぞれの主題に応じて3つの番号を割り振られ系統立て…

2016年ベスト10冊(後半)

(6)アンナ・カヴァン 鷲の巣鷲の巣 満たされない日々を過ごし人生への絶望に陥りかけていた語り手のわたしは、過去に世話になっていた人物「管理者」が新聞に求人を出しているのを見かけ、そこに最後の希望をたくします。しかし、鷲の巣と呼ばれる管理者の…

2016年ベスト10冊(前半)

今更感がありますが2016年読んだ本ベスト10冊です。読んだ順。 (1)R・A・ラファティ 第四の館第四の館 (未来の文学) 『地球礁』『宇宙舟歌』に並ぶラファティの初期代表長篇だそうですが、この中だったら個人的にはこれが一番面白いと思います。「とっても…

パウル・シェーアバルト著 種村季弘訳 小遊星物語

パウル・シェーアバルト著 種村季弘訳 小遊星物語小遊星物語 (平凡社ライブラリー) 菫色の空に緑色の星と太陽が輝く、漏斗を二つはめ込んだ樽のような形をした小遊星パラス。そこには空を飛べるタコ型のようなそうでないような(吸盤付きの脚があるからタコ…

ヤン・ヴァイス著  深見 弾訳 迷宮1000

ヤン・ヴァイス著 深見 弾訳 迷宮1000迷宮1000 (創元推理文庫) 赤い絨毯の流れ落ちる階段の上、奇妙な夢から目覚めた男は記憶を失っていた。1000のフロアを持つ巨大建築の迷宮の中、わずかな手がかりから彼は自分の使命であったらしいタマーラ姫の捜…

ミハル・アイヴァス著 阿部 賢一訳 黄金時代

ミハル・アイヴァス著 阿部 賢一訳 黄金時代黄金時代 前半は西洋文明とは全く異なる不思議な文化様式を持つ架空の島についての文化人類学的紀行文、後半はその島の唯一の芸術といえる「本」の一部の内容を記憶をもとに書き記したものという構成。流れ落ちる…

きっとあなたは、あの本が好き。 / ステファン・グラビンスキ 芝田 文乃訳 動きの悪魔

きっとあなたは、あの本が好き。 都甲 幸治 , 武田 将明 , 藤井 光 , 藤野 可織 , 朝吹 真理子他きっとあなたは、あの本が好き。連想でつながる読書ガイド (立東舎) 春樹、アリス、ホームズなどキャッチーな切り口から、それぞれ担当の三人が連想から色々な…

ウィリアム・サローヤン 柴田 元幸訳  僕の名はアラム

ウィリアム・サローヤン 柴田 元幸訳 僕の名はアラム僕の名はアラム (新潮文庫) アメリカの片田舎、アラムという名の9歳の男の子の周りで起こるユーモア溢れるあれこれのお話。フィクションともノンフィクションともつかない、古いけれども古びない、不思議…

安部 公房  燃えつきた地図

安部 公房 燃えつきた地図燃えつきた地図 (新潮文庫) 失踪した男の調査を依頼された興信所の職員のぼく。男の妻である依頼人の妻からは確たる話を引き出せず、わずかな手がかりを追っていくも、見当違いの方向に引き回されるばかり。いつしかぼくはぼく自身…

稲生 平太郎  アムネジア

稲生 平太郎 アムネジアアムネジア 1つの死亡記事に興味を持ったことから謎の巨大闇金融、永久機関、かみのけ座、いつかのお茶会のチョコレート・ケーキ、殺人諸々が織りなす甘く残酷な非日常に絡め取られていく僕。読み進めるうちに自分の足元もぐらついて…

多田 智満子  鏡のテオーリア

多田 智満子 鏡のテオーリア鏡のテオーリア (ちくま学芸文庫) 鏡をめぐる哲学エッセイ。古今東西の該博な知識をもとに、あくまでも軽やかに展開される文章の心地よさ。日本の宗教と鏡の縁の深さなんて、なぜか全く意識してなかったので新鮮だった。 また、鏡…

ロード・ダンセイニ 中野 善夫訳  ウィスキー&ジョーキンズ

ロード・ダンセイニ 中野 善夫訳 ウィスキー&ジョーキンズウィスキー&ジョーキンズ: ダンセイニの幻想法螺話 密林に潜む幻の獣、摩訶不思議な魔術、秘密の宝物、魔性の女性…しがない英国のビリヤード・クラブの名物、ウィスキーがあればいくらでも信じがた…

ジッド 狭き門

ジッド 狭き門狭き門 (光文社古典新訳文庫) 幼い頃から互いに運命の人と認識しあっていたジェロームと従姉妹のアリサ。しかし、ジェロームが求婚してもアリサは拒むばかりで、二人の距離はどんどん遠ざかっていく。アリサは互いが高みに進むためには一緒にい…

ポール・オースター 幻影の書

ポール・オースター 幻影の書幻影の書 (新潮文庫) 妻子を飛行機事故で失い、絶望に陥った私を立ち直らせたのはずっと以前に映画界から姿を消した無声映画の監督兼俳優のヘクター・マンだった。彼の映画に取り憑かれ、研究本を出版した私のもとに、死んだと思…

ラヴィ・ティドハー 完璧な夏の日(上・下)

完璧な夏の日〈上〉 (創元SF文庫) 完璧な夏の日〈下〉 (創元SF文庫) ラヴィ・ティドハー 完璧な夏の日(上・下) 第二次世界大戦前、突如現れた不老の超能力者達。彼らは超人と呼ばれ各国の軍部等に徴収されていた。その一人、かつて英国の情報部にいたフォ…

2015年ベスト10冊(後半)

2015年ベスト10冊後半です。読んだ順。 前半:2015年ベスト10冊(前半) - ゆうれい読書通信 6 V・S・ラマチャンドラン「脳のなかの幽霊」脳のなかの幽霊 (角川文庫) 幻肢痛からはじまり、様々な奇妙な症例から探る脳の不思議について。ずーっと読みたい本リ…

2015年ベスト10冊(前半)

あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします。去年は随分記事数が少なくなってしまったので今年はもうちょっと頑張りたい所存です。 さて、2015に読んだ本の中から10冊、読んだ順での紹介です。まず前半。 1 エリザベス・ボウエン「ボ…

ブライアン・エヴンソン 遁走状態

ブライアン・エヴンソン 遁走状態遁走状態 (新潮クレスト・ブックス) 小さなつまづきから自我も体も世界もぼろぼろと崩れていく恐怖と魅惑に引きずり込まれる不条理ホラー短編集。姉妹で経験した出来事を上手く姉と共有できないまますれ違い続ける妹、前妻た…

ウィリアム・アレグザンダー 仮面の街

ウィリアム・アレグザンダー 仮面の街仮面の街 魔女グラバの家で暮らしていた少年ロウニーはある日、街で禁止されている芝居を上演するゴブリンの一座に出会う。どうも彼らはロウニーの行方不明の兄のことを知っているらしい。一座に加わり魔女グラバから逃…

ルーシー・M・ボストン 海のたまご

ルーシー・M・ボストン 海のたまご 海のたまご (岩波少年文庫 (2142)) 夏休み、コーンウォールの海辺にやってきたトビーとジョーの兄弟は、浜の漁師から不思議な石の卵を手に入れる。その卵を秘密のプールに入れておいた二人は、やがて子供のトリトンと出会…

ミヒャエル・エンデ 自由の牢獄 (とマグリット展)

ミヒャエル・エンデ 自由の牢獄自由の牢獄 (岩波現代文庫) この前マグリット展を見に行って、今更ながらマグリットはとてもいいなあと思ったのと同時に、エンデの短編集「自由の牢獄」を連想した。そもそも私がシュルレアリスムを勉強したいと思っている(し…