ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

海外

アンドレ・ブルトン著 巌谷 國士訳 ナジャ

アンドレ・ブルトン著 巌谷国士訳 ナジャ まず、訳註の熱量がすごい。これだけ長くても私が最後まで参照しながら読めたというのもすごい。しかし註を先に読むか後で読むかというのは悩ましい問題。 作品の感想を書くのは難しい。見知らぬ大きな家の中で迷っ…

J.D.サリンジャー著 村上 春樹訳 キャッチャー・イン・ザ・ライ

J.D.サリンジャー著 村上 春樹訳 キャッチャー・イン・ザ・ライ 十数年振りに訳を変えて再読。春樹訳は大分マイルドで読みやすい感じ。再読といっても細かいことは全然覚えてなかったのでほぼ初読といっていいぐらい。 青春小説の常として、十代の頃に読ん…

ルイ=フェルディナン・セリーヌ著 生田耕作訳 夜の果てへの旅

ルイ=フェルディナン・セリーヌ著 生田耕作訳 夜の果てへの旅 様々な物議をかもした問題作家セリーヌによる、青年医師フェルディナン・バルダミュの幻滅に満ちた遍歴を描く半自伝的小説。 やたらと辛そうな前評判、独特かつ饒舌な文体、上下二巻本、これは確…

アゴタ・クリストフ著 堀茂樹訳  悪童日記

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)作者: アゴタクリストフ,Agota Kristof,堀茂樹出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2001/05/01メディア: 文庫購入: 100人 クリック: 3,630回この商品を含むブログ (276件) を見るアゴタ・クリストフ著 堀茂樹訳 悪童日記 傑作と聞き…

M.バルガス=リョサ著 木村榮一訳 緑の家

M.バルガス=リョサ著 木村榮一訳 緑の家緑の家(上) (岩波文庫)緑の家(下) (岩波文庫) ペルーの密林と砂漠を舞台に、複数の物語が時系列もばらばらに目まぐるしく切り替わりながら縦横無尽に展開していく。ピウラの町の外れ、砂漠に建てられた娼家「緑の…

フリオ・リャマサーレス著  木村 榮一訳 黄色い雨

フリオ・リャマサーレス著 木村 榮一訳 黄色い雨黄色い雨 (河出文庫) スペインの山奥の廃村アイニェーリェ村、かつての村人がみな逃げるように去った後もただひとり村にとどまった男の孤独な日々。飾らない静かな文章から滲み出すのは死と狂気の気配、狂気と…

レイナルド・アレナス著 安藤哲行訳 夜明け前のセレスティーノ

夜明け前のセレスティーノ (文学の冒険シリーズ)レイナルド・アレナス著 安藤哲行訳 夜明け前のセレスティーノ 母は井戸に飛び込み、祖父は斧を振りかざし、いとこのセレスティーノは木という木に詩をきざむ。村からはのけものにされ、貧しさと憎しみが吹き…

カルヴィーノ作 和田忠彦訳 パロマー

パロマー (岩波文庫)カルヴィーノ作 和田忠彦訳 パロマー 波や女性の胸や星空や、様々なものを観察しては考察し自分と宇宙との関係を模索する中年男性パロマー氏。いわば彼の観察日記のような27の短篇がそれぞれの主題に応じて3つの番号を割り振られ系統立て…

パウル・シェーアバルト著 種村季弘訳 小遊星物語

パウル・シェーアバルト著 種村季弘訳 小遊星物語小遊星物語 (平凡社ライブラリー) 菫色の空に緑色の星と太陽が輝く、漏斗を二つはめ込んだ樽のような形をした小遊星パラス。そこには空を飛べるタコ型のようなそうでないような(吸盤付きの脚があるからタコ…

ヤン・ヴァイス著  深見 弾訳 迷宮1000

ヤン・ヴァイス著 深見 弾訳 迷宮1000迷宮1000 (創元推理文庫) 赤い絨毯の流れ落ちる階段の上、奇妙な夢から目覚めた男は記憶を失っていた。1000のフロアを持つ巨大建築の迷宮の中、わずかな手がかりから彼は自分の使命であったらしいタマーラ姫の捜…

ミハル・アイヴァス著 阿部 賢一訳 黄金時代

ミハル・アイヴァス著 阿部 賢一訳 黄金時代黄金時代 前半は西洋文明とは全く異なる不思議な文化様式を持つ架空の島についての文化人類学的紀行文、後半はその島の唯一の芸術といえる「本」の一部の内容を記憶をもとに書き記したものという構成。流れ落ちる…

きっとあなたは、あの本が好き。 / ステファン・グラビンスキ 芝田 文乃訳 動きの悪魔

きっとあなたは、あの本が好き。 都甲 幸治 , 武田 将明 , 藤井 光 , 藤野 可織 , 朝吹 真理子他きっとあなたは、あの本が好き。連想でつながる読書ガイド (立東舎) 春樹、アリス、ホームズなどキャッチーな切り口から、それぞれ担当の三人が連想から色々な…

ウィリアム・サローヤン 柴田 元幸訳  僕の名はアラム

ウィリアム・サローヤン 柴田 元幸訳 僕の名はアラム僕の名はアラム (新潮文庫) アメリカの片田舎、アラムという名の9歳の男の子の周りで起こるユーモア溢れるあれこれのお話。フィクションともノンフィクションともつかない、古いけれども古びない、不思議…

ロード・ダンセイニ 中野 善夫訳  ウィスキー&ジョーキンズ

ロード・ダンセイニ 中野 善夫訳 ウィスキー&ジョーキンズウィスキー&ジョーキンズ: ダンセイニの幻想法螺話 密林に潜む幻の獣、摩訶不思議な魔術、秘密の宝物、魔性の女性…しがない英国のビリヤード・クラブの名物、ウィスキーがあればいくらでも信じがた…

ジッド 狭き門

ジッド 狭き門狭き門 (光文社古典新訳文庫) 幼い頃から互いに運命の人と認識しあっていたジェロームと従姉妹のアリサ。しかし、ジェロームが求婚してもアリサは拒むばかりで、二人の距離はどんどん遠ざかっていく。アリサは互いが高みに進むためには一緒にい…

ポール・オースター 幻影の書

ポール・オースター 幻影の書幻影の書 (新潮文庫) 妻子を飛行機事故で失い、絶望に陥った私を立ち直らせたのはずっと以前に映画界から姿を消した無声映画の監督兼俳優のヘクター・マンだった。彼の映画に取り憑かれ、研究本を出版した私のもとに、死んだと思…

ラヴィ・ティドハー 完璧な夏の日(上・下)

完璧な夏の日〈上〉 (創元SF文庫) 完璧な夏の日〈下〉 (創元SF文庫) ラヴィ・ティドハー 完璧な夏の日(上・下) 第二次世界大戦前、突如現れた不老の超能力者達。彼らは超人と呼ばれ各国の軍部等に徴収されていた。その一人、かつて英国の情報部にいたフォ…

ブライアン・エヴンソン 遁走状態

ブライアン・エヴンソン 遁走状態遁走状態 (新潮クレスト・ブックス) 小さなつまづきから自我も体も世界もぼろぼろと崩れていく恐怖と魅惑に引きずり込まれる不条理ホラー短編集。姉妹で経験した出来事を上手く姉と共有できないまますれ違い続ける妹、前妻た…

ウィリアム・アレグザンダー 仮面の街

ウィリアム・アレグザンダー 仮面の街仮面の街 魔女グラバの家で暮らしていた少年ロウニーはある日、街で禁止されている芝居を上演するゴブリンの一座に出会う。どうも彼らはロウニーの行方不明の兄のことを知っているらしい。一座に加わり魔女グラバから逃…

ルーシー・M・ボストン 海のたまご

ルーシー・M・ボストン 海のたまご 海のたまご (岩波少年文庫 (2142)) 夏休み、コーンウォールの海辺にやってきたトビーとジョーの兄弟は、浜の漁師から不思議な石の卵を手に入れる。その卵を秘密のプールに入れておいた二人は、やがて子供のトリトンと出会…

ミヒャエル・エンデ 自由の牢獄 (とマグリット展)

ミヒャエル・エンデ 自由の牢獄自由の牢獄 (岩波現代文庫) この前マグリット展を見に行って、今更ながらマグリットはとてもいいなあと思ったのと同時に、エンデの短編集「自由の牢獄」を連想した。そもそも私がシュルレアリスムを勉強したいと思っている(し…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス 永遠の歴史

ホルヘ・ルイス・ボルヘス 永遠の歴史永遠の歴史 (ちくま学芸文庫) 時と永遠についての評論と覚書。ボルヘスの諸短編に見られる共通主題についての論考であること、自分の興味範囲と少しテーマがかぶっていたこともあって、今まで読んだボルヘスの中では一番…

ジーン・ウルフ ピース

ジーン・ウルフ ピースピース アメリカの寂れた小さな街に住む老人の回想、という体裁で語られる幻想文学。子供の頃の近所の子供の死、美しい叔母とその求婚者たち、叔母の知人が語る石化する薬剤師の話の思い出、そしてその回想の中にいくつも挿まれる童話…

ヘレン・マクロイ 逃げる幻

ヘレン・マクロイ 逃げる幻 逃げる幻 (創元推理文庫) 休暇中にハイランド地方を訪れたダンバー大尉は、理由不明の家出を繰り返す少年について相談を受ける。しかもその少年は荒野の真ん中から突如消え失せたという。大尉は偶然家出しようとしている途中の少…

中村 融編  街角の書店 (18の奇妙な物語)

中村 融編 街角の書店 (18の奇妙な物語) 街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫) ミステリ、SF、怪奇をベースにブラックユーモアを効かせて読後にいわく言いがたい奇妙な味わいを残す「奇妙な味」と呼ばれる類の短篇を集めたアンソロジー。この本は比較…

イーヴリン・ウォー ピンフォールドの試練

イーヴリン・ウォー ピンフォールドの試練 ピンフォールドの試練 (白水Uブックス) 近頃物忘れなどが多くなり様子がおかしい、というので転地療養のため船に乗った小説家ピンフォールド。しかしどうも無線の配線がおかしいらしく、その船のそこかしこで聞こえ…

ジュリアン・グラック アルゴールの城にて / エリック・ファーユ わたしは灯台守

ジュリアン・グラック アルゴールの城にてアルゴールの城にて (岩波文庫) 広大な森と海に囲まれたブルターニュの古城で、三人の男女が展開する無言のオペラ劇。饒舌な文章は比喩を重ね、読者を予感と表象の迷宮に落としこむ。なんとまあ濃密な…くらくらする…

エリザベス・ボウエン ボウエン幻想短篇集

エリザベス・ボウエン ボウエン幻想短篇集ボウエン幻想短篇集 アイルランド出身の作家、ボウエンの短篇のうち幻想味の強いものを集めた短篇集。ゴーストストーリーが多い。それも(雑なくくりで申し訳ないけれど)いわゆる怪奇系ゴーストというより心理系ゴ…

ジェイムス・クリュス ロブスター岩礁の燈台

ジェイムス・クリュス ロブスター岩礁の燈台ロブスター岩礁の燈台 「風のうしろの幸せの島」を探している若い作家である僕は、帆布工房のハウケ・ジーヴァース親方が何か知っているかもしれないと聞き、親方のところへ毎日通って話を聞かせてもらうことにす…

マーヴィン・ピーク タイタス・グローン―ゴーメンガースト三部作 1   アレクサンダー・レルネット=ホレーニア 両シチリア連隊 

マーヴィン・ピーク タイタス・グローン―ゴーメンガースト三部作 1 タイタス・グローン―ゴーメンガースト三部作 1 (創元推理文庫 (534‐1)) ゴーメンガースト三部作その1。連綿と続くしきたりと石の重みに閉じ込められた異形の城、ゴーメンガースト。七十七…