ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ミヒャエル・エンデ 自由の牢獄 (とマグリット展)

ミヒャエル・エンデ 自由の牢獄自由の牢獄 (岩波現代文庫) この前マグリット展を見に行って、今更ながらマグリットはとてもいいなあと思ったのと同時に、エンデの短編集「自由の牢獄」を連想した。そもそも私がシュルレアリスムを勉強したいと思っている(し…

池澤 夏樹 ハワイイ紀行 / 大竹 伸朗 カスバの男―モロッコ旅日記

池澤夏樹 ハワイイ紀行ハワイイ紀行 完全版 (新潮文庫) ハワイの歴史、食べ物、言語、サーフィンなど幅広く取り扱っていて、ちょっと教科書に掲載されてそうな雰囲気ではあるけれど、ハワイは美しいだけの島ではなく戦いの歴史(と現在)を持っていることを…

中野 美代子  カスティリオーネの庭

中野美代子 カスティリオーネの庭カスティリオーネの庭 円明園の西洋庭園にある、十二支像を擁する時計じかけの噴水の裏から白骨死体が発見された。その西洋庭園を設計したのは清の乾隆帝に宮廷画家として仕えるイエズス会の宣教師カスティリオーネ。彼が西…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス 永遠の歴史

ホルヘ・ルイス・ボルヘス 永遠の歴史永遠の歴史 (ちくま学芸文庫) 時と永遠についての評論と覚書。ボルヘスの諸短編に見られる共通主題についての論考であること、自分の興味範囲と少しテーマがかぶっていたこともあって、今まで読んだボルヘスの中では一番…

ジーン・ウルフ ピース

ジーン・ウルフ ピースピース アメリカの寂れた小さな街に住む老人の回想、という体裁で語られる幻想文学。子供の頃の近所の子供の死、美しい叔母とその求婚者たち、叔母の知人が語る石化する薬剤師の話の思い出、そしてその回想の中にいくつも挿まれる童話…

ヘレン・マクロイ 逃げる幻

ヘレン・マクロイ 逃げる幻 逃げる幻 (創元推理文庫) 休暇中にハイランド地方を訪れたダンバー大尉は、理由不明の家出を繰り返す少年について相談を受ける。しかもその少年は荒野の真ん中から突如消え失せたという。大尉は偶然家出しようとしている途中の少…

中村 融編  街角の書店 (18の奇妙な物語)

中村 融編 街角の書店 (18の奇妙な物語) 街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫) ミステリ、SF、怪奇をベースにブラックユーモアを効かせて読後にいわく言いがたい奇妙な味わいを残す「奇妙な味」と呼ばれる類の短篇を集めたアンソロジー。この本は比較…

イーヴリン・ウォー ピンフォールドの試練

イーヴリン・ウォー ピンフォールドの試練 ピンフォールドの試練 (白水Uブックス) 近頃物忘れなどが多くなり様子がおかしい、というので転地療養のため船に乗った小説家ピンフォールド。しかしどうも無線の配線がおかしいらしく、その船のそこかしこで聞こえ…

ジュリアン・グラック アルゴールの城にて / エリック・ファーユ わたしは灯台守

ジュリアン・グラック アルゴールの城にてアルゴールの城にて (岩波文庫) 広大な森と海に囲まれたブルターニュの古城で、三人の男女が展開する無言のオペラ劇。饒舌な文章は比喩を重ね、読者を予感と表象の迷宮に落としこむ。なんとまあ濃密な…くらくらする…

エリザベス・ボウエン ボウエン幻想短篇集

エリザベス・ボウエン ボウエン幻想短篇集ボウエン幻想短篇集 アイルランド出身の作家、ボウエンの短篇のうち幻想味の強いものを集めた短篇集。ゴーストストーリーが多い。それも(雑なくくりで申し訳ないけれど)いわゆる怪奇系ゴーストというより心理系ゴ…

2014年読んだ本ベスト10

今年読んだ本のなかで特に強い印象をのこしたもの10冊。読んだ順で。一人一作しばり。まだ感想かいてないのはまたおいおい…。 ブルトン『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫) ブリヨン『幻影の城館』幻影の城館 タブ…

ジェイムス・クリュス ロブスター岩礁の燈台

ジェイムス・クリュス ロブスター岩礁の燈台ロブスター岩礁の燈台 「風のうしろの幸せの島」を探している若い作家である僕は、帆布工房のハウケ・ジーヴァース親方が何か知っているかもしれないと聞き、親方のところへ毎日通って話を聞かせてもらうことにす…

マーヴィン・ピーク タイタス・グローン―ゴーメンガースト三部作 1   アレクサンダー・レルネット=ホレーニア 両シチリア連隊 

マーヴィン・ピーク タイタス・グローン―ゴーメンガースト三部作 1 タイタス・グローン―ゴーメンガースト三部作 1 (創元推理文庫 (534‐1)) ゴーメンガースト三部作その1。連綿と続くしきたりと石の重みに閉じ込められた異形の城、ゴーメンガースト。七十七…

トマス・フラナガン アデスタを吹く冷たい風 / アントニイ・バークリー 最上階の殺人

トマス・フラナガン アデスタを吹く冷たい風アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) 名作として名高い(らしい)ミステリ短篇集。らしいというのは私が寡聞にして今まで知らなかったからです。はい。 うち四編はアデスタという独裁が敷かれた小国…

ジョン・ディクスン・カー テニスコートの殺人

ジョン・ディクスン・カー テニスコートの殺人 テニスコートの殺人【新訳版】 (創元推理文庫) 雨上がりのテニスコートの真ん中に転がっていた若きプレイボーイの絞殺死体。周囲のぬかるんだ土の上には婚約者ブレンダの足跡しかついていなかったが、彼女は絶…

一言感想まとめ

池澤春菜 乙女の読書道乙女の読書道 翻訳SF、ファンタジーに特化したレビュー集。何というかこってりがっつりなセレクトですね。意外にジャンルかぶってるようでかぶってなかったため、未読の作品が多く勉強になった。ダイアナ・ウィン・ジョーンズとウッド…

ドン・ウィンズロウ 高く孤独な道を行け

ドン・ウィンズロウ 高く孤独な道を行け高く孤独な道を行け (創元推理文庫) 中国の寺に篭っていた探偵ニール・ケアリーは、父親に誘拐された子どもを連れ戻す任務のためにアメリカに舞い戻る。順調に居場所を割り出し子どもを奪還できるかと思われたが、作戦…

ピーター・ワッツ ブラインドサイト 上・下

ピーター・ワッツ ブラインドサイト ブラインドサイト〈上〉 (創元SF文庫) ブラインドサイト〈下〉 (創元SF文庫) ある日突然地球全体を包囲した何千個もの「ホタル」と呼ばれる探査機の親元を探るために派遣された調査船テーセウス。彼らはオールトの雲付近…

ディケンズ ディケンズ短篇集

ディケンズ ディケンズ短篇集 ディケンズ短篇集 (岩波文庫 赤 228-7) 初ディケンズ。人間心理への関心をベースに、素朴な怪奇風味、ミステリ要素、コミカルさを混ぜ込んだ短篇集。長い作品が苦手な自分としては長編には手を出しづらいのでまず短編から…。デ…

一言感想まとめ

ロバート・ファン・ヒューリック 東方の黄金東方の黄金 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1804) ディー判事もの、時系列でいうと最初の事件。キャラの魅力はいうほど…だけどストーリー展開はこなれてるし、怪奇やら宗教やら陰謀やら盛りだくさんの割にさっくり…

マイケル・オンダーチェ 名もなき人たちのテーブル

マイケル・オンダーチェ 名もなき人たちのテーブル名もなき人たちのテーブル 11才の少年マイナは、客船オロンセイ号に乗り込みスリランカから英国へ向かう船旅に出る。オロンセイ号での彼の食卓は、キャッツテーブルと呼ばれる船長から一番遠い席であり、い…

アストリッド・リンドグレーン わたしたちの島で / ポール・ボウルズ モロッコ幻想物語

アストリッド・リンドグレーン わたしたちの島でわたしたちの島で (岩波少年文庫) 避暑地としてウミガラス島の古びた別荘を借りたメルケルソン一家と島の人々の過ごす日々を描いた児童文学。もともとテレビドラマの脚本として書かれたものだそうで、長編と連…

ヘンリー・ジェイムズ  ねじの回転 -心霊小説傑作選-

ヘンリー・ジェイムズ ねじの回転 -心霊小説傑作選- ねじの回転 -心霊小説傑作選- (創元SF文庫) 決して雇い主を煩わせない、という条件のもと田舎の館で兄妹の家庭教師の職を得た若い女性。子どもたちは天使のように愛らしかったが、館に出現する忌まわしい…

ジョン・スコルジー レッドスーツ

ジョン・スコルジー レッドスーツレッドスーツ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 新米のダール少尉は旗艦イントレピッド号に配属されるが、そこでは数人の上級士官を除いたクルーの死亡率が異常に高く、他の乗組員も新米達に何かを隠しているようだった。ダール…

ジョーン・G・ロビンソン 思い出のマーニー

ジョーン・G・ロビンソン 思い出のマーニー新訳 思い出のマーニー (角川文庫) 学校にうまくなじめないアンナは、養母のはからいで田舎の海辺で早めの夏休みを過ごすことになり、そこで湿地の大きな館に住む少女マーニーと出会う。少女の一夏の不思議な友情と…

一言感想まとめ

キャサリン・マンスフィールド マンスフィールド短篇集マンスフィールド短編集 (新潮文庫) みずみずしい文章と感性にゆらゆら揺れる。その揺らぎは時に幸せのさなかから死や絶望、容赦の無い現実へとも大きく振れ、ざくりと心をえぐっていく。逆もないわけで…

ジョン・ファウルズ 魔術師 上・下

ジョン・ファウルズ 魔術師 上・下 魔術師〈上〉 (河出文庫) 魔術師〈下〉 (河出文庫) 恋人アリスンから離れるためにギリシャの島で英語教師として就職したイギリス人青年ニコラス。謎の老人コンヒスやまるで過去から抜け出してきたような美女との出会いから…

ピエール・シニアック ウサギ料理は殺しの味 / リンジー・フェイ ゴッサムの神々 上・下

ピエール・シニアック ウサギ料理は殺しの味ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫) 車の故障でしばらく田舎町に滞在することになった私立探偵事務所の職員シャンフィエ。そこではレストランのメニューにウサギ料理が載ると若い女が殺される、という奇怪な事件…

テリー・ホワイト 真夜中の相棒

テリー・ホワイト 真夜中の相棒真夜中の相棒〈新装版〉 (文春文庫) ベトナム戦争での出来事をきっかけに共に生きるようになったジョニーとマック。借金を重ね否応なく殺し屋となった彼らは、とある手違いで刑事を殺してしまい、被害者の相棒の刑事に追われる…

フラン・オブライエン 第三の警官

フラン・オブライエン 第三の警官 第三の警官 (白水Uブックス/海外小説 永遠の本棚) 出版資金のために使用人と共謀して、とある金持ちの老人を殺した僕。隠した金庫を取りにその老人の家にもう一度忍び込んだところ、老人の亡霊に出くわし、そしていつの間に…