ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ジーン・ウルフ デス博士の島その他の物語


 ウルフの作品は、丁寧に読み込むおもしろさはもちろん、素朴な読みでも充分以上におもしろいのがすばらしい。「ケルベロス第五の首」を読んだ時にも唸らされたが、この「デス博士の島その他の物語」もおもしろかった。こちらの方が叙情性多めなので好みかな。特に最初の「デス博士の島その他の物語」と最後の「眼閃の奇跡」が好き。
表題作の「デス博士の島その他の物語」は母親が再婚間近で微妙な立場にいる少年の話。どこか歪んだ少年の現実世界の中に、彼の読んでいた物語の登場人物たちが侵入してきて語りかけるようになる。そうこうするうち決定的な事件が起きて…
 もちろんファンタジーともとれる話だけど、二人称の語りが使われていることで、この語り手は未来の少年なのでは、そして登場人物達の侵入は未来の彼が当時の「きみ」に差し出している一種の救いの手なのでは、とか妄想がふくらむわけです。最後の甘い感傷が忘れがたい。子供時代の終焉というテーマに弱いのでひいき目もある。
 「眼閃の奇跡」は盲目の少年が主人公。あらすじは…説明しがたいな…。すごく大雑把に言うとアイデンティティのない少年がおかしな二人組に拾われ、とあるものを破壊しに行くことになるのですが。どこかノスタルジックなSF。時折不意に少年の心の中の想像が混ざりこんでくるのでちょっとややこしいけど、この幻惑される感じが好き。これも最後がすてき。ウルフの描く子どもはいいな。キャラが立ってるとかリアルだとかではなくて、まわりの風景を含めた切り取り方がいいというか。優しさを感じる。
 パワフルさ、迫力なら「アイランド博士の死」。一番SFらしいSF。圧倒される。怪奇風の「アメリカの七夜」はこういう風に仕掛けますよー!という宣言がある点で、鈍感な私にも優しい。はずれなしの短篇集でした。



「デス博士の島その他の物語」「アイランド博士の死」「死の島の博士」「アメリカの七夜」「眼閃の奇跡」