読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

キース・ロバーツ パヴァーヌ

感想 海外 SF



 


エリザベス1世の暗殺により、ローマ・カトリックの支配下に置かれたイギリス。教会により科学が弾圧され異端審問がいまだ続く中、反乱の動きが起こる。

 手に汗握るサスペンスフルなスチームパンクSF…かと思いきや意外に渋い。このあらすじで間違ってはいないんだけど、連作短編集の形式で各短編では個々の人生に焦点を当てている上、決定的な動きが起こるまでには結構時間がかかる。よってはじめはあれっ意外に地味という感想。舞台背景は丹念に描き込まれているし、スチームパンク的ガジェットの存在感もあるんだけど、それぞれの話のテーマ・骨組みがなんというか純文的でオーソドックスな印象なんだよね。実らない恋であったり、死であったり、閉鎖された世界からの脱出であったり。社会全体の動きよりごくごく個人的な事柄について書かれたものの方が好きなので、嬉しい驚きだった。時代の違うそれぞれの個人の人生の話が積み重なった上で、それまで底を流れていたうねりが終盤表面に溢れ出す展開は寡黙ながらもけして消えることのない熱を秘めている。この作品の魅力は蒸気機関車のそれとどこか似ている気がする。無骨で重そうでそう簡単に動きそうには見えないが、一度動き出したらその迫力たるや。
 それと、特筆すべきはそのリアリティ。特に装飾の多い文章ではないのに、ところどころでふわーっとイメージが湧き上がってきて映画の中に入り込んだような臨場感を味わった。基本ちょっと地味なトーンの作品なだけに、この臨場感や、時代・世界をつなぐ鎖になっている「古い人々」のもたらす幻想味による浮遊感が忘れがたい。おもしろかった。