ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

カレル・チャペック イギリスだより / フランシス・アイルズ 殺意



 初チャペックが旅行記というのもどうなんだろうとちょっと思ったけど、おもしろかったので問題なし。ユーモアと愛情(そして皮肉)が詰め込まれた愛すべき作品。ロンドンや都市部についてはその非人間的なところが強調される一方で、田舎の風景の描写はまんまアルカディアでうっとりする。というかうらやましい。私もそこの羊になりたいです…
 チャペック自身が描いたイラストが多数はいってて、これもなかなかすてき。




 周到な計画をたて、自分の妻を殺害した田舎の開業医ビクリー博士。その殺意の芽生えから意外な結末に至るまでの博士の心理を克明に描いた倒叙ミステリ。
 著者名はフランシス・アイルズですが、アントニイ・バークリーの別名義の作品です。これまでに読んだバークリーの作品はジャンピング・ジェニイ、毒入りチョコレート事件、第二の銃声の3つだけど、これは一番苦手かな…。心理描写の細かさは一等だけど、なにせ最初から最後まで垂れ流される博士の自意識とかコンプレックスとか思い上がりに付き合い続けるのは体力いります。彼はかなりこじらせたあれなキャラクターなんだけど、たまにぱっと思いついてテンション上がったと思えば次の瞬間やっぱりだめだー!って言い出したりするところとか、妙にリアリティを感じる。凡人が犯罪を犯せばこんなものだろうなぁ。文章で読むと大げさに見えるけど、自分の思考だって自動垂れ流し状態になれば多かれ少なかれ似たようなものかもしれんと思わせられるのもまたきつい。この生々しさはどきっとする。犯罪者の心理を描くという点では確かに名作なのかも。
 あと、バークリーは割りとゴシップ的な成分が多い人で、それがリーダビリティにもつながってるんだけど、この作品ではちょっと濃すぎて胸焼け気味。どろどろしてますなぁ。