ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

安房 直子  白いおうむの森 / まよいこんだ異界の話(安房直子コレクション4)



 甘く美しく、そして怖い童話集。作者の描く異界は夢のように優しいがゆえに不穏だ。くるくると反転する内と外(地下に広がる森、部屋のなかの野原、たもとの中のミニチュア世界、大女のスカートのひだの中に広がる風景)、「あちら」と「こちら」の近さから、作者の死生観がかいま見えるような気がする。この怖さは神かくしの怖さに近いような。小川未明を思い出す。とても懐かしいけれど、見てはいけない世界。そこではきっと私が私じゃなくなって、人間だったことを忘れて、全に溶けてしまうような気がする。きっと幸せにはなれるんだろうけど。
 昔、同作者の『ねこじゃらしの野原』という本が好きだったのだけど、あの本の最後の話も、見てはいけないものを見てしまったかのような怖さと違和感があったなぁ。きれいだから怖いんです。
 お気に入りは白いおうむの森、鶴の家、ながい灰色のスカート、野の音。多分怖い話のほうが好きなんだと思う。


「雪窓」「白いおうむの森」「鶴の家」「野ばらの帽子」「てまり」「ながい灰色のスカート」「野の音」





 なんとも魅力的なタイトル。まよいこんだ異界の話、聞きたい?って言われたらそりゃもうはいはいお願いしますってお茶とお菓子を差し出す所存です。収録されているのは「ハンカチの上の花畑」「ライラック通りの帽子屋」「丘の上の小さな家」「三日月村の黒猫」の四作。『白いおうむの森』の話ほど不穏ではないけれど、やっぱりどの話もそこはかとなく怖い。
 「ハンカチ~」はお酒をつくる小人の話。教訓話らしいあらすじではあるけど、決定的な出来事が起こるまでの盛り上げ方とか終わり方とかがそこはかとなくホラー。「丘の上の小さな家」暗い森のなかの塔に絡みつくかぼちゃの花のランプの描写が印象的。お話自体も、物悲しいトーンの中にぽっとひとつ灯がともるかのようなそんな美しさ。「ライラック~」夢のような淡い色彩が美しい。「三日月村の黒猫」これがいちばん好きかな。三日月村の描写が幻想的。