ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

巖谷 國士 シュルレアリスムとは何か



 著者が実際におこなった講義を書き起こしたものなので、非常に読みやすく分かりやすい。あれ、私実はそこまであほじゃなかったかもしれない、と錯覚しかけた。シュルレアリスムって何となくイメージはあるけど実際よく分からない、位のレベルでも全然問題ないです。
 内容はシュルレアリスム、メルヘン、ユートピアの三本立て。シュルレアリスムについては、デペイズマン(意外な組み合わせ)とオートマティスム(自動筆記・理性のコントロールからの逸脱)を軸に、超現実と現実、「私」とオブジェ(主観と客観)、といったテーマが語られる。例えばファンタジーは境界を超えてあちらに行くがシュルレアリスムには境界がない(現実と超現実が連続的)、とか。
 メルヘンの章では、童話や神話、伝説との違いから「おとぎばなし」という文学形式の不思議さを解き明かしていく。時代も地域も限定されない、集団から自然発生的に生まれた(個人の作者がいない)、自我の感じられない物語であるおとぎばなし。その自我のなさはシュルレアリスムにもつながるわけです。おとぎばなし的要素がある現代の作品に触れられているのもおもしろい。
 ユートピアにはそんな興味なかったけれど、そもそもユートピアについてぼんやりと抱いていたイメージすら間違ってる事に気づいたので勉強になった。ユートピアディストピア、というお話。アルカディアとは全然別物なのだな…。