読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

佐藤 亜紀  バルタザールの遍歴 /  天沢 退二郎  光車よ、まわれ!

佐藤 亜紀  バルタザールの遍歴


 ひとつの体に双子の精神を持ったウィーン没落貴族、バルタザールとメルヒオールの遍歴の物語。
 20代で書かれたとは思えない文章力と知識量。大戦前のヨーロッパが舞台だけど、翻訳小説と言われたら信じてしまいそうな違和感の無さ。抑制された硬質な文体とシニカルなユーモアが読んでいて楽しい。基本はメルヒオールが語り手をつとめるのだけど、時々バルタザールが口を挟んでくる漫才っぷりが好きです。双子っていいよね…
 舞台設定や端正な文章、シニカルなキャラクターの魅力などの共通点は皆川博子を思い起こさせるけど、読む感触自体はむしろ反対に近いかもしれない。囚われ深みに引きずり込まれる皆川作品にくらべ、この人のは先へ先へと駆け抜けていく爽快さを感じる。



天沢 退二郎  光車よ、まわれ!


 ある雨の日、一郎はクラスの中に化け物が紛れ込んでいることに気づいてしまう。不気味な水面の裏側の国の住人たちと戦うため、彼は級友の不思議な美少女・龍子らとともに光車を探しはじめる。
 勇気と友情のファンタジー…かと思いきや、意外なほど不気味でひやりと冷たく、しかしそれにもまして美しい幻想的イメージにあふれた物語。現実に侵食してくる不気味な生き物たち、水面の裏の奇妙な世界、赤く浮かび上がる地霊文字の謎のメッセージ、ひたひたと表の世界まで押し寄せ溢れてくる水…そして溺れかかった世界を救う、あかあかと輝く光車。生きたイメージの数々にぐらぐらと揺さぶられる。読んでいてとてもわくわく、というかぞくぞく?した。やはりあちらとこちらがごっちゃになる話ってのは怖いなぁ。水面の裏の世界の描写がところどころ人体内部を思わせるのも、龍子のおじいさん関連の謎も、生々しさを増していて不気味。表の世界だってほんとに表なのか、現実なのか、と勘ぐりたくなります。ちゃんと再読しよう。