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ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

アントニオ・タブッキ 夢のなかの夢

感想 海外 幻想


アントニオ・タブッキ 夢のなかの夢


 実在した芸術家たちが見たかもしれない夢を描いた短篇集。各話に彼らそれぞれの作品・生涯が織り込まれているものの、その不条理と浮遊感は実際の夢のよう。今はもういない人々が見た夢の世界を覗き見る、その親密さと隔たりのないまぜになった感覚は好きだなぁ。夢というのは個人の秘密の塊そのものでありながら、その秘密は謎に包まれたままなのだし、これらの魅力的な秘密を抱えていた人々はもうこの世界にはいない。一時彼らのつくりだした夢の世界を共に見ることはできても、彼らの目覚めとともにその世界は閉じ、私たちはもはやなすすべもなく彼らの死を思い出す。
 しかもこれらの夢は実際はタブッキの作品なんだからまたややこしい。本来夢見ている人の主観の世界であるのが、三人称で書かれているというのが奇妙なずれを呼び起こす。タブッキの淡々とした文章の中に(私が読み取る)芸術家たちの主観と私自身の主観が照らし合わされている、って考えだすと何だかこんがらかってきます。
 しかし最後の夢がフロイトの夢、というのはあれですね。批判的とまでは言わないけれど、多少の皮肉は込められているだろうし、しかしそこにはある種の救いも込められているような。貴方だって夢を見ていたはずだと。