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ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

佐藤 亜紀  鏡の影

感想 国内

佐藤亜紀  鏡の影



 世界を変える一点を探すため、旅に出た異端の学僧ヨハネス。俗物ばかりの世界を転がり落ちていくうち、自身も堕落し、とある美少女に惚れたのをきっかけにシュピーゲルグランツと名乗る美しい悪魔と契約を交わしてしまう始末。しかし農民一揆や異端審問に巻き込まれながらも彼は求める一点に確実に近づいていく。さてその先にあるものは。
 清々しいほどの俗物オンパレードっぷりにそりゃ世界変えたくもなるわと思いつつ、筆者の描く堕落はからりとしていてあまり苦にならない。ヨハネスの受難の旅も、気の毒というよりはスラップスティックじみた印象を受けるため意外にさらさらと読める。ウィットのある会話、種々様々な駄目人間達がつむぐひねた関係性なんかも楽しいし。騎士殿なんかは相当どうしようもないキャラクターなのに妙に愛着がわくのはさすがだなぁと。神学、図像学あたりの知識があればもっと深く読み込めるのだろうけど、なくても問題なく楽しめる。


以下はネタバレ含みますのでご注意を。



 最後のベアトリクス処女懐胎は、世界が変わったということの兆しなのだろうけど、その後あの世界が良い方向に進むというか清浄になるとはとても思えないな。むしろあの俗っぷりが魅力のようなもんだし。ヨハネスが空っぽになって女の長持ちにしまいこまれたということからして、単にヨハネス自身が生まれ変わったと取るのが自然だろうか。ごくごく素朴に考えれば、世界を変える一点は自分にしかない。少々皮肉ながら、曇天続きだった作品世界に一筋の陽が差し込んだかのようなラスト。