ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ヘレン・マクロイ 小鬼の市 / マイクル・イネス ハムレット復讐せよ

ヘレン・マクロイ 小鬼の市




 カリブの島国に駐在していたアメリカの新聞記者の死亡後、その業務を引き継いだフィリップ・スターク。前任者の死亡は単なる事故と見なされていたが、そうではなかった。前任者が遺したスクープの手がかりを追い始めた彼は、さらなる事件に巻き込まれていく。

 「暗い鏡の中に」「幽霊の2/3」のほの暗い抑制された雰囲気とは打って変わって、めくるめく色彩の南国を舞台に展開されるサスペンス。ラベンダー色の影、ターコイズラピスラズリの海、うるむような星空、といった舞台背景の美しさは、ちょっと描写が過剰な気もするけど楽しい。日差し照りつける気怠い昼と、人々の秘密を覆い隠す、危険だけれどどこかなまめかしい夜のコントラストが妙に脳に焼きつく。マクロイって計算された緻密なミステリを書く人という印象だけど、イメージ喚起力も強いよなぁと再認識した。詩の引用の仕方も上手い。「暗い鏡の中に」のスウィンバーン「フォスティーヌ」もよかったけど、今回はロセッティの「小鬼の市」。文中で一度引かれるだけだが強い印象を残す。




マイクル・イネス ハムレット復讐せよ



 英国の大貴族ホートン公爵の大邸宅で、名士達による素人劇のハムレットが上演された。そしてその最中にポローニアス役の大法官が殺される。黄金時代の英国ミステリ。

 まずはなんといってもとても心くすぐられる舞台設定が魅力。これぞ英国古典ミステリ。本文自体も長ければ登場人物表も長い作品で、作者が気合入れて書いてるのが伝わってくる。読み通すのは正直ちょっと大変だったけど、その分作品世界にどっぷり浸れると思えばなんとか。
 ストーリー自体は割りとシンプルなので、これだけ長くなるのはやはり登場人物の多さとその紹介(みんなそれなりに出番があるし)や、ハムレット論や犯人像についての登場人物間の議論を盛り込んでるせいかな。その議論も最後の真犯人像の奥行きを出すのに繋がっていくからムダに長いわけではないし。いい意味でスタンダードな一方、細部でもところどころ忘れがたい印象を残す作品だった。第二の被害者のエピソードとか、唯一出演する職業俳優のアドリブ演技の凄味だとか。