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ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

フラン・オブライエン 第三の警官


フラン・オブライエン 第三の警官




 出版資金のために使用人と共謀して、とある金持ちの老人を殺した僕。隠した金庫を取りにその老人の家にもう一度忍び込んだところ、老人の亡霊に出くわし、そしていつの間にか三人の警官が管轄し自転車人間の住む奇妙な世界に取り込まれてしまう。
 どことなくとぼけた一人称の語りのおかげで意外と読みやすいものの、内容はなかなかきてるものがある。名前をなくした「僕」が迷い込む異界は、不条理ながらも一見のんきな世界に見えるが、不穏さはそれこそ夜の黒い粒子のようにじわじわと忍び寄ってくるよう。物語のそこここに出てくるフラクタル構造というのか、どこへ進んでも結局は出発地点と同じところにしかたどり着かない堂々巡りも、面白いと同時にどことなく狂気を感じさせる。「僕」はこの閉じた世界から逃げられない。というかこの世界の狭さ薄っぺらさはそのまま「僕」から来てるものだろうし。
 どこをとっても印象的だけど、とりわけ終盤の夜のシーンはひきこまれる。夜の描写は手触りがあり立体的な分、それまでの日中の空虚さが俄然あらわになり、夜の恐怖と合わせてそれまでの昼への恐怖がなだれこんでくる。
 …何だかホラー小説の感想文みたいになってきたけど、実際はそんなことないです多分。ナンセンスとユーモアはアリスを思わせるし、語り手はかなり能天気というかダメ人間だし。からりとした遊戯性と明るい狂いっぷり、じわじわくる不穏さのスリルが楽しい。