ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

アストリッド・リンドグレーン わたしたちの島で / ポール・ボウルズ モロッコ幻想物語


アストリッド・リンドグレーン わたしたちの島で

 
 避暑地としてウミガラス島の古びた別荘を借りたメルケルソン一家と島の人々の過ごす日々を描いた児童文学。もともとテレビドラマの脚本として書かれたものだそうで、長編と連作短編集の間といった感触。特に大事件というほどの出来事はないけれど、子どもたちのちょっとした冒険やらお父さんの日曜大工の奮闘やら長女のボーイフレンド関連やらがかわるがわる持ち上がり、この日々は永遠につづくのでは、と甘い郷愁にひたりそうになる。作者のリンドグレーン、「ミオよわたしのミオ」ではひたすらに美しい情景と澄んだ切なさ哀しみが印象的だったけれど、こちらではユーモアたっぷりに子どもたちの日常を描いていてまた違う印象が。ドジっ子父さんかわいい。




ポール・ボウルズ モロッコ幻想物語


 ポール・ボウルズがモロッコで聞いた物語を文字に書き写した作品群。民話の型を色濃く残している話が多いものの、あくまで個人の想像の産物であり、語り手によって作風も随分違う。煙のようにとらえどころのないヤアクービーの話の奇妙な味わい、ブライシュの黒く苦い諧謔、自伝に近い、淡々とした語り口にいっそう心がえぐられるライヤーシーの話、ムラーベトの人をそらさない話の構成の巧みさ。ボウルズがどこまで忠実に書き起こしているのかは分からないが、簡潔な文の重なりが生むリズム感に、声で語られる物語の魅惑を思う。