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ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

トマス・フラナガン アデスタを吹く冷たい風 / アントニイ・バークリー 最上階の殺人


トマス・フラナガン アデスタを吹く冷たい風


 名作として名高い(らしい)ミステリ短篇集。らしいというのは私が寡聞にして今まで知らなかったからです。はい。
 うち四編はアデスタという独裁が敷かれた小国が舞台のシリーズもの。軍人として上辺は命令に従いつつも自分の良心・プライドを貫くテナント少佐の立ち回りがかっこいい。いやかっこいいという言葉ではちょっと軽いかな…。短篇で、心理描写も少ないけれど、少佐の生き様が見事に彫り込まれている。純然たるミステリなんだけれど、一番印象に残るのはその空気感というか、乾いた筆致とざらりと苦い舌触りだろうか。もちろんミステリとしても面白くて、チェスタトン的なアイロニーと反転が鮮やか。
 他に3編おさめられているノンシリーズものは、それぞれ異なる作風が楽しめる。「うまくいつたようだわね」のじらしの上手さにも感心するが、歴史ミステリの「玉を懐いて罪あり」がやっぱり面白いなぁ。




アントニイ・バークリー 最上階の殺人


 とあるマンションの最上階のフラットで老婦人が殺された。室内の荒らされ方、怪しい男の目撃情報等から警察はプロの物盗りの犯行と推定するが、小説家であり素人探偵でもあるロジャー・シェリンガムは納得がいかず、独自に調査を開始する。
 シェリンガムがシリーズ比でちゃんと探偵っぽい作品。実験や聞き込みなど、かなり力をいれて調査していて、成り行きで被害者の姪を秘書として雇い入れちゃう始末。この彼女がまた強烈なキャラクターの美女で、彼女とシェリンガムの掛け合いがおもしろい。この作品の魅力はまずなんといっても登場人物たちの掛け合いのユーモアですね。被害者の住むアパートの住人たちも個性が強く、彼らとの聞き込みもいきいきとしていて楽しい。
 容疑者たちのペースに流されがちなシェリンガムだけれど、ちゃんと推理はしていて、彼らしい想像力過多な、しかしストーリーとしてはしっくりする解答を出します。まぁ彼の推理が当たるかどうかは読んでからのお楽しみですが。ネタ自体は単純ながら意表をつくもので、上手いこと長編に仕立て上げているなぁと感心した。すっぱりとしたラストも素敵。