ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

マーヴィン・ピーク タイタス・グローン―ゴーメンガースト三部作 1   アレクサンダー・レルネット=ホレーニア 両シチリア連隊 


マーヴィン・ピーク タイタス・グローン―ゴーメンガースト三部作 1 



 ゴーメンガースト三部作その1。連綿と続くしきたりと石の重みに閉じ込められた異形の城、ゴーメンガースト。七十七代当主タイタスの誕生により、泥のように淀んだ変わらぬ日常に変化が訪れようとしていた。
 舞台から登場人物から訳文から、とにかくアクの強いファンタジー。幻想というにはあまりの重量感だけれど、かといっていわゆるリアルさがあるわけではなく、悪夢がどこかの異界で肉を得てしまったかのような生々しい重み。これでは確かに解説の言うとおり、幻想への逃避ではなく幻想から逃避するほかない。この一部ではタイタスの誕生というゴーメンガースト新生の予感と城内での謀反がうごきはじめ、しきたりがほころびていくところまでが描かれるけれど、この巨大な石の迷宮とその中にうごめく異形の人びとをどう解体していくのか気になるところ。でもこれあと3巻読むの辛いな…。どこまでも石の通路や塔や見捨てられた部屋が連なる建物の描写は心ときめくのだが、人物描写のこってり具合が苦手で…。画家をしていたということもあり絵として印象的なシーンも多々あるし、一度読んだら忘れがたい作品ではある。





アレクサンダー・レルネット=ホレーニア 両シチリア連隊 



 1925年ウィーン、大戦時に両シチリア連隊を率いたロションヴィル大佐とその娘ガブリエーレが招かれた夜会で、元両シチリア連隊の将校でありガブリエーレに求婚していたエンゲルスハウゼンが殺されているのが発見された。その後、当時両シチリア連隊に所属していた将校たちは様々な形で死に見舞われる。幻想とミステリが絡みあった反ミステリ。
 話の本筋はミステリ、枝葉やキイワード(ドッペルゲンガー、自己のあやふやさ、夢もしくは幻視、運命論など)は幻想文学。幻想とミステリがくるくる絡まるその中心点にあるのは一種の諦観と虚無であり、ミステリとして決着はつくものの煙に巻かれるような感覚は、好きな人にはたまらないかと。私はもちろん好きです。特にドッペルゲンガーまわり。ちゃんと理屈はつくのだけれどそれでも拭い切れない不穏さあやうさ。カバー絵は作品の雰囲気をよくうつしだしていると思います。