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ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ジェイムス・クリュス ロブスター岩礁の燈台

感想 海外 児童文学 ファンタジー

ジェイムス・クリュス ロブスター岩礁の燈台



 「風のうしろの幸せの島」を探している若い作家である僕は、帆布工房のハウケ・ジーヴァース親方が何か知っているかもしれないと聞き、親方のところへ毎日通って話を聞かせてもらうことにする。
 親方のお話は、親方の兄の燈台守ヨハン、その友達の賢い鴎アレクサンドラ、爆撃から逃れてきたユーリエおばさんとポルターガイスト、意地悪だがお話に目がない水の精、といった面々が出てくるおとぎばなし風の語りでなされるけれど、僕は自分が実際に見知っている人びとが登場していることに気づく。このファンタジーと現実の折り合いのつけ方はこの作品の一つの特徴になっていて、重層的な枠組みをとる構造にもそれが現れている。作品内では「現実」にあたる、僕が親方から話をきく外枠では、親方のお話は一見ファンタジーだけれどあくまで現実をおとぎばなしのように脚色して語っているもの。そして親方のお話という内枠の中で登場人物たちがそれぞれに語るお話についても、「大事なことはそれが現実かどうかではなく美しいかどうか」というスタンスで語られる。内枠の中で語られる挿話はファンタジー(あるいは寓話)だけれど、その一つ一つの挿話のもたらすものを、二つの枠組を通して外枠の外の現実まで汲み上げるような構造になっている。エンデもそうだけれど、戦時を生きてきた児童文学作家は、現実/ファンタジーの関係にどうしても意識的になるのだろうか、と思ったり。その誠実さには胸を打たれるところがある。
 枠の中身に話を移すと、カラフルな挿話も楽しいけれど、燈台での日々の柔らかな描写が好きだなぁ。実際はかなり寒い気候のはずだけど、五月の風と光にさらされているかのような。あと、風のうしろというとジョージ・マクドナルドの北風のうしろの国を思い出すけれど、何か元ネタがあるのだろうか。