ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ジュリアン・グラック アルゴールの城にて / エリック・ファーユ わたしは灯台守

ジュリアン・グラック アルゴールの城にて


 広大な森と海に囲まれたブルターニュの古城で、三人の男女が展開する無言のオペラ劇。饒舌な文章は比喩を重ね、読者を予感と表象の迷宮に落としこむ。なんとまあ濃密な…くらくらする。悪酔いってこんな感じなんだろうか。経験したことないけれど。アルゴールの森の木々は確実にアヘンとかアルコールに類する何かを発散してると思う。
 比喩の奔流による惑わしだけではなく、何か視点に違和感がある、と思ってたけれど解説読んでちょっと納得。夢からの逃走劇、と読むと少ししっくりする。彼らの行動が世界によって定められたものとしか感じられないところだとか、淀んだ時の流れに抗うように打つ時計の音だとか。あと、水平と垂直のイメージの多用が気になった。色々考察したくなる作品だなぁ。



エリック・ファーユ わたしは灯台守


 表題作の中編と8つの短篇、どれも関連はないけれど主題はほぼ共通していて、孤独な人びとの不条理かつ奇妙な話ばかり。ぱっと連想されるのはカフカブッツァーティだけど、それらよりは少し青臭いだろうか。登場人物たちのみじめさと滑稽さ、そしてそう感じる自分への嫌悪感もあり、読後感は苦い…と思いきや妙な清々しさもある。不思議な感じ。彼らの様になりたいわけではないのだが、多分私は彼らがうらやましいんだろう。

 列車が走っている間に 六時十八分の嵐 国境 地獄の入口からの知らせ セイレーンの眠る浜辺 ノスタルジー売り 最後の 越冬館 わたしは灯台守