ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

イーヴリン・ウォー ピンフォールドの試練


イーヴリン・ウォー ピンフォールドの試練




 近頃物忘れなどが多くなり様子がおかしい、というので転地療養のため船に乗った小説家ピンフォールド。しかしどうも無線の配線がおかしいらしく、その船のそこかしこで聞こえる声が彼を悩ませる。この船には彼を憎みいたずらを仕掛けているものがいるらしい。大戦中に開発された謎の箱を使い彼を惑わしてくる見えざる敵との戦いが始まる…
 ざくっと紹介すると中年の小説家が船旅で幻聴に惑わされるブラックユーモア小説。しかし、読み始めた時期の個人的心身の調子の悪さもあり、気が狂うことへの恐怖やらピンフォールドの被害妄想っぷりというか自意識過剰っぷりやらが辛くてまさに試練って感じで、一回途中で放棄してしまった。少し余裕がありそうな時期に再開したら話が進むにつれて悪ノリ具合も増しむしろ安心して読めるように。えげつないブラックさではあるけれど、最後は割とあっさり収まるので、まぁユーモア小説の範疇なんだと思います。最初はびびりすぎてた模様。だってウォーって油断してたらぐっさぐっさ刺されそうだし…。身構えるじゃないですか。ユーモア小説だと思いこんで読んだら(私の防御力だと)痛手の一つや二つ負いかねない。今思うとこのへんの緊張感もこの小説の魅力のひとつだったりするのかも。再三書いてる気がするけれど、ウォーのバランス感覚には感心する。素知らぬ顔で読者を振り回し、引くところはあっさり引き、最後にはちゃんとニュートラルに戻す。
 で、作品の結末にちょっと安堵しつつ解説めくったらまた違う試練が始まってた。吉田健一の文章って慣れないと頭くらくらしてくるなぁ。