ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ジーン・ウルフ ピース


ジーン・ウルフ ピース



 アメリカの寂れた小さな街に住む老人の回想、という体裁で語られる幻想文学。子供の頃の近所の子供の死、美しい叔母とその求婚者たち、叔母の知人が語る石化する薬剤師の話の思い出、そしてその回想の中にいくつも挿まれる童話、民話などの物語。しかしその美しい物語や回想の中には細部が伏せられているものや結末が明かされないものや正しいかどうか曖昧なものがいりまじり、一番外枠の現実と思しき語り手の現在さえ、色々と疑わしい。静謐な文章で語られる幻想の物語と古きよきアメリカの田舎ののどかな情景にぼんやりひたっているうちに、幾度と無く現れる不穏な死の影に目を覚まされる。疑い出せばきりがない。ウルフだもの。幾つもの解釈が成り立つ作品だが、あえて一つの解釈を選び取らなくてもいいのでは、という解説には共感。なんというか、謎、つまり開かない部屋をそのままに残しておくことで保たれる魅力もある。もちろん作品世界をひたすら掘り下げていくことで分かる魅力もあるし、好き好きだけれど。
 あと、最後がとても好き。おそらく一番希望の持てる解釈を許してくれる。