ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ブライアン・エヴンソン 遁走状態


ブライアン・エヴンソン 遁走状態



 小さなつまづきから自我も体も世界もぼろぼろと崩れていく恐怖と魅惑に引きずり込まれる不条理ホラー短編集。姉妹で経験した出来事を上手く姉と共有できないまますれ違い続ける妹、前妻たちに追われ続ける男、舌が意思に反する単語をしゃべるようになった大学教授…。作中人物達が崩壊しながらも世界を手さぐりで取り戻そうとするその様子は切ないと同時にこっけいでもある。はじめはなにこれ辛い、と思いながら読んでたはずが、段々慣れてくるとむしろコメディ面が目につくようになってくる。彼らの世界はすでに残酷で不可解なものでしかないんだけれど、彼ら自身にはどこか子供みたいに楽天的で人懐いところがあるせいか、突き放されそうで突き放されない不思議な引力を持つ作品。グロいのはグロいけど私でも一応読める(ただし一部は斜め読みした)範囲だし初期作品に比べると暴力の描写は大分控えめになってるんだとか。しかし一体初期はどんなんだったんだ…。
 好きな話は残酷さとユーモアがひときわ際立つ「マダー・タング」、キャラ設定が色々と秀逸な「九十に九十」、表題作の「遁走状態」。