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ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ポール・オースター 幻影の書


ポール・オースター 幻影の書


 妻子を飛行機事故で失い、絶望に陥った私を立ち直らせたのはずっと以前に映画界から姿を消した無声映画の監督兼俳優のヘクター・マンだった。彼の映画に取り憑かれ、研究本を出版した私のもとに、死んだと思われていたそのヘクター・マンの妻から手紙が届く。
 久々のポール・オースター。書く/読む、喪失/再生という初期から変わらないテーマに何だか懐かしい気持ちになる。しかし初期作品のひりひりとした青臭さや閉じた感じは薄れ、読者に対して開かれた作品になっている様に感じた。色彩感覚と映像の描写の巧みさ、物語のエンジンと構造の端正さのバランスが保たれているところにも円熟味を感じる。とはいえ、よくできた作品ではあるしおもしろかったものの、ニューヨーク三部作や「最後の物たちの国で」などに比べると個人的にはあまり引っかかるものがなかったかもしれない。単純にオースターの描く喪失感にこっちの年齢が追いついてないのが原因と思われるが。