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ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

パウル・シェーアバルト著 種村季弘訳 小遊星物語


パウル・シェーアバルト著 種村季弘訳 小遊星物語


 菫色の空に緑色の星と太陽が輝く、漏斗を二つはめ込んだ樽のような形をした小遊星パラス。そこには空を飛べるタコ型のようなそうでないような(吸盤付きの脚があるからタコ型を想像するというだけで、実際他の描写を読んでも全容はあまり想像がつかない)パラス人達が住んでいて、ユートピア的社会を形成していた。漏斗の中にはベルト道路があり、芸術家によって作られた夥しい灯台がきらめき、漏斗の底に貼られた皮膜は音楽を奏で…と不思議な世界が広がっていて、その奇想には目を瞠らんばかり。パラス人達は何不自由なく平和かつ幸福に暮らしている様に思えるのだが、指導者のうちの一人レザベンディオは星々の持つ二重構造(遊星の本体とその上空にある上部構造)に興味を示し、より偉大な存在への融合に焦がれている。このレザベンディオが主体となり、他の天体の住人クィッコー人も巻き込んで、上部構造を調査するための巨大な塔がパラス星に建てられることとなる。
 前半のパラス星の文明のあれこれやクィッコー人達との出会いと交流についてはいたってのどかな、メルヒェンらしいところがあるけれど、塔の建築が始まると次第に彼らの中でも軋轢が生じ、苦悩・苦痛がクローズアップされていく。のんきなユートピアかと見えたパラス星は、よく思い返してみれば、生殖行為が存在しないため新たなパラス人を増やすには鉱脈から種を掘り起こすしかない、からからに乾いた(パラス人は乾ききると死ぬ)不毛な星だ。高山宏が解説でこの女性性の欠落したパラス星の悲劇について言及していてとても参考になる。レザベンディオの上部構造への執着と全体との融合への渇望は危ういけれども切実なものであり、私だってそれに魅惑されるところは少なからずあるけれど、しかしどう受けとめたものだろう…。奇想に満ちたきらきらした建築SFと思っていたら、まさかこんなところまで運ばれるとは。
 解説を読むとほかにも様々な視点からの読解があってもう一度読み返したくなるし、思想云々抜きにしても、明滅する光と色、建築美、イメージだけでも非常に魅惑的な作品。