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ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

レイナルド・アレナス著 安藤哲行訳 夜明け前のセレスティーノ


レイナルド・アレナス著 安藤哲行訳 夜明け前のセレスティーノ


 母は井戸に飛び込み、祖父は斧を振りかざし、いとこのセレスティーノは木という木に詩をきざむ。村からはのけものにされ、貧しさと憎しみが吹き荒れる閉じられた世界のまっただなかで語るのはまだ幼い少年の声、その内容は悲惨としか言い様がないのだが、そこにははっとするほどみずみずしい陶酔というか幸福感がある。それは作者の書く喜びが滲み出したものでもあるだろうし、子供がとりつかれたようにひたすらしゃべる時、「しゃべること」自体に見出しているだろう快感でもあるだろうし。自己と世界、現実と幻想がまだ分かたれていない夜明け前のリズムとリフレイン。魔術的なリズムの中で、ぼくも含めて家族は何度でも死に、何度でも生き返る。じいちゃんの斧の音が執拗に、運命的に響く。アチャスアチャスアチャス。
 いやはやすごい作品。読了後しばらく魂が抜けていた。3つめの最後までたどり着いても、結局最初いたところから前には一歩も進んでなくて、ぐるぐる高速でまわるダンスからはじき出されたかの様なさみしさと安堵が残る。