ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

M.バルガス=リョサ著 木村榮一訳 緑の家


M.バルガス=リョサ著 木村榮一訳 緑の家


 ペルーの密林と砂漠を舞台に、複数の物語が時系列もばらばらに目まぐるしく切り替わりながら縦横無尽に展開していく。ピウラの町の外れ、砂漠に建てられた娼家「緑の家」の興亡と元「緑の家」の主のその後、密林からシスター達の伝道所に連れてこられたインディオの娘の身の行方、かつては密林でインディオ達を統率し強盗団のボスとして略奪に明け暮れていたが今は病の身を船上に横たえる日本人の過去の回想、ピウラの町ののらくら者の番長達。どのピースをとっても豊穣で面白い。マジックのつかないリアリズムでもこの面白さ、ラテアメはすごいな…。
 登場人物の呼び方が時と場合によって変わる上、現在と過去の回想がシームレスに語られるので最初はちょっと読みづらいが、いったん慣れるとぐいぐい物語に引っ張られていく。文体自体は平明で会話文が多いし、むしろ乗ってくると読みやすい。上下二冊でおまけにそれぞれ結構な分厚さではあるが最後までだれることなく読まされた。読者に能動的な読み方を促すけれど、それが鼻につくこともなく、むしろ一緒にピースをはめていくのが楽しい作品。暴力と悲惨に溢れた物語ではあるし、読んでいて多々辛いところもあったけれど、その混沌を否定するのは難しい。根底にあるのは善悪含めた生への肯定なのだろう。