ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

アンドレ・ブルトン著 巌谷 國士訳 ナジャ

ナジャ (岩波文庫)

アンドレ・ブルトン著 巌谷国士訳 ナジャ

 

 まず、訳註の熱量がすごい。これだけ長くても私が最後まで参照しながら読めたというのもすごい。しかし註を先に読むか後で読むかというのは悩ましい問題。

 

 作品の感想を書くのは難しい。見知らぬ大きな家の中で迷ってしまったような感触。根本的に私はこの作品が何を書こうとしたのかが掴めていない。シュルレアリスムの小説と思い込んで読みはじめたせいで余計に迷子になったのかもしれないが、ブルトン自身手探りで書いているのだろうという感じもある。彼はなぜナジャを書いたのだろう?彼女との約束という以外に?もちろん自責の念もあったのだろうが。
 作品中に現れる追憶のノスタルジー、鮮烈な思想、時にはっとする切実な呼びかけは美しいが、私にはそれ以上に生の不可解さと虚しさが残る。批判的な意味ではなく。私とは誰か?それは私は誰とつきあっているのかを知ること、といっても私は他者を理解し得ないのだし、やはり自分も理解し得ないのだ。ナジャを掬い上げようとし、自分を掬い上げようとしても、砂のように零れ落ちるのは、本人が最も痛感しているところだろう。しかしそれでも試みた理由は何だったのだろう?
 美とは痙攣的なものだろうという結語は様々なイメージを呼ぶが、死と生の狭間を強く想起させるものでもあり、やはりこれはナジャのための言葉なのだろうという気がする。