ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ボリス・ヴィアン 心臓抜き


内容(「BOOK」データベースより)
過去を持たず、空虚な存在として生まれた精神科医ジャックモール。その精神分析は、他者の欲望・願望を吸収して自己を満たすために施される…本書は、軽みとペシミズムが同居するいつもながらのヴィアン風味を保ちながらも、後者により比重のかかった著者最後の長篇小説である。ジャックモールのうつろで行き場のない姿を、発表後50年経った現在を生きる若者に重ね合わせてみるのも、決して無謀な試みとは言えないだろう。


読了日:11/12


 ボリス・ヴィアンは二作目。これはまたなんて感想を書いたらいいのか難しい作品だな…。「日々の泡」はシュールでポップできらきらしてて、でもちょっとグロテスク、ぐらいの配分だったと思うのだが、この「心臓抜き」はグロ分てんこもりだった。スプラッタ系のグロさではなくいびつで生々しいグロさ。不条理ユーモアというにはちょっと生々しすぎる。
 通りがかりの家で出産の手助けをした精神科医ジャックモールはその家に居候することになり、近くの村で精神分析を行おうとするが、村では老人が老人市で売り飛ばされ、小僧は虐待されるのが当たり前、一方居候先の家では母親の子供への過保護っぷりが狂気に近づいていく。この母性愛の過剰な「家」と欠如した「村」、どちらで起きる出来事も読んでて辛い…。そして人々の内面は空虚なのに、世界は妙に肉肉しい。効果的に挟まれる赤い色が印象的。これがまたなんとも気持ち悪い。この世界、時代もよくわからないし村と家と海しか存在してないように思えるし、神話的なところがあってどうにも子宮の中を連想する。
 唯一の良心だったアンジェルさんが退場した時はどうしようかと思ったけど、結局最後まで読んでしまった。かなり辛い読書だったのだが読み終わるのは意外に早かった。ヴィアンの文章の魅力のなせる技である。比喩や暗喩が詰め込まれてるのに無造作な印象もうける不思議な文章。とらえがたい。