ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

国内

中上 健次著 枯木灘

中上 健次著 枯木灘 和歌山の枯木灘と呼ばれる土地を舞台に、複雑な地縁と血縁の関係に縛られた青年秋幸をめぐる半自伝的小説。秋幸サーガ三部作の二作目ということなので、本当は一作目の岬から読んだ方がいいのだろうけど、枯木灘単体で読んでも完結はして…

伊藤 計劃  ハーモニー

伊藤 計劃 ハーモニーハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA) 「大災禍」という世界的危機以降、人類は人命・健康を何よりも優先し病気のないユートピアを築き上げた。善意に溢れたというよりも善意しか許されない、個々人の生命は社会的リソースとして大事に…

高山 宏 殺す・集める・読む / 小栗 虫太郎 黒死館殺人事件

高山 宏 殺す・集める・読む殺す・集める・読む―推理小説特殊講義 (創元ライブラリ) ホームズ、チェスタトン、クリスティらの錚々たる作品に文化史的視点から新たな光をあてるミステリ論。たとえばホームズを世紀末的感性から見つめ直した時、彼らの華麗な冒…

きっとあなたは、あの本が好き。 / ステファン・グラビンスキ 芝田 文乃訳 動きの悪魔

きっとあなたは、あの本が好き。 都甲 幸治 , 武田 将明 , 藤井 光 , 藤野 可織 , 朝吹 真理子他きっとあなたは、あの本が好き。連想でつながる読書ガイド (立東舎) 春樹、アリス、ホームズなどキャッチーな切り口から、それぞれ担当の三人が連想から色々な…

安部 公房  燃えつきた地図

安部 公房 燃えつきた地図燃えつきた地図 (新潮文庫) 失踪した男の調査を依頼された興信所の職員のぼく。男の妻である依頼人の妻からは確たる話を引き出せず、わずかな手がかりを追っていくも、見当違いの方向に引き回されるばかり。いつしかぼくはぼく自身…

稲生 平太郎  アムネジア

稲生 平太郎 アムネジアアムネジア 1つの死亡記事に興味を持ったことから謎の巨大闇金融、永久機関、かみのけ座、いつかのお茶会のチョコレート・ケーキ、殺人諸々が織りなす甘く残酷な非日常に絡め取られていく僕。読み進めるうちに自分の足元もぐらついて…

多田 智満子  鏡のテオーリア

多田 智満子 鏡のテオーリア鏡のテオーリア (ちくま学芸文庫) 鏡をめぐる哲学エッセイ。古今東西の該博な知識をもとに、あくまでも軽やかに展開される文章の心地よさ。日本の宗教と鏡の縁の深さなんて、なぜか全く意識してなかったので新鮮だった。 また、鏡…

池澤 夏樹 ハワイイ紀行 / 大竹 伸朗 カスバの男―モロッコ旅日記

池澤夏樹 ハワイイ紀行ハワイイ紀行 完全版 (新潮文庫) ハワイの歴史、食べ物、言語、サーフィンなど幅広く取り扱っていて、ちょっと教科書に掲載されてそうな雰囲気ではあるけれど、ハワイは美しいだけの島ではなく戦いの歴史(と現在)を持っていることを…

中野 美代子  カスティリオーネの庭

中野美代子 カスティリオーネの庭カスティリオーネの庭 円明園の西洋庭園にある、十二支像を擁する時計じかけの噴水の裏から白骨死体が発見された。その西洋庭園を設計したのは清の乾隆帝に宮廷画家として仕えるイエズス会の宣教師カスティリオーネ。彼が西…

一言感想まとめ

池澤春菜 乙女の読書道乙女の読書道 翻訳SF、ファンタジーに特化したレビュー集。何というかこってりがっつりなセレクトですね。意外にジャンルかぶってるようでかぶってなかったため、未読の作品が多く勉強になった。ダイアナ・ウィン・ジョーンズとウッド…

一言感想まとめ

キャサリン・マンスフィールド マンスフィールド短篇集マンスフィールド短編集 (新潮文庫) みずみずしい文章と感性にゆらゆら揺れる。その揺らぎは時に幸せのさなかから死や絶望、容赦の無い現実へとも大きく振れ、ざくりと心をえぐっていく。逆もないわけで…

一言感想まとめ

セシル=デイ・ルイス オタバリの少年探偵たち オタバリの少年探偵たち (岩波少年文庫) 第二次世界大戦直後のイギリス、空き地で二組に分かれて戦争ごっこをしていた少年たち。彼らが仲間内の一人のためにかせいだお金が忽然と消え失せ、嫌疑が片方のグループ…

佐藤 亜紀  鏡の影

佐藤亜紀 鏡の影鏡の影 (講談社文庫) 世界を変える一点を探すため、旅に出た異端の学僧ヨハネス。俗物ばかりの世界を転がり落ちていくうち、自身も堕落し、とある美少女に惚れたのをきっかけにシュピーゲルグランツと名乗る美しい悪魔と契約を交わしてしまう…

カレル・チャペック 園芸家12ヶ月 / 吉田 篤弘 パロール・ジュレと魔法の冒険

カレル・チャペック 園芸家12ヶ月園芸家12カ月 (中公文庫) なぜか小説には手を付けずエッセイばっかり買ってるチャペック。皮肉なユーモアが読んでいて落ち着くもので…この本も期待に違わず楽しく読んだ。園芸家(というか園芸マニア)とはいかに滑稽なもの…

一言感想まとめ

西崎憲 世界の果ての庭世界の果ての庭 (ショート・ストーリーズ) (創元SF文庫) 幾つかの物語の断片が交互に描かれ、ゆるやかにつながり、しかし収束はしない。幾つものルーム(区画)が連なる庭を逍遥する心地。虚実も時空も宙ぶらりんな中を漂う快楽は何だ…

佐藤 亜紀  バルタザールの遍歴 /  天沢 退二郎  光車よ、まわれ!

佐藤 亜紀 バルタザールの遍歴バルタザールの遍歴 (文春文庫) ひとつの体に双子の精神を持ったウィーン没落貴族、バルタザールとメルヒオールの遍歴の物語。 20代で書かれたとは思えない文章力と知識量。大戦前のヨーロッパが舞台だけど、翻訳小説と言われた…

高橋 源一郎 さようなら、ギャングたち / ジャネット・ウィンターソン 灯台守の話

高橋 源一郎 さようなら、ギャングたちさようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫) 真摯に生み出される冗談のような言葉。はじめはあーブローティガンだなーとか苦手なタイプかもとか思いながら読んでいたのが、段々頭の中が静かになった。分からないけどえ…

巖谷 國士 シュルレアリスムとは何か

シュルレアリスムとは何か (ちくま学芸文庫) 著者が実際におこなった講義を書き起こしたものなので、非常に読みやすく分かりやすい。あれ、私実はそこまであほじゃなかったかもしれない、と錯覚しかけた。シュルレアリスムって何となくイメージはあるけど実…

光嶋 裕介 幻想都市風景 / ジョン・クロウリー エンジン・サマー

光嶋 裕介 幻想都市風景幻想都市風景 珍しく画集など。人の気配があまりしない都市・建築の絵は好き。まわりに生きた他人がたくさんいるのは煩わしいが、全く人の手が入っていない自然の中は不安・寂しい、というダメっぷりを許容してくれますし…。 この『幻…

一言感想まとめ

ウィリアム・アイリッシュ 『幻の女』幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1)) 適度な緊迫感とスピードで読ませる、お手本のようなストーリー展開。よく出来たサスペンスミステリです。しかし今この作品が評価され続けているのは、プロットの面だけではな…

夢野久作 ドグラ・マグラ / パーシヴァル・ワイルド 悪党どものお楽しみ

ドグラ・マグラ ぐっと引きずり込まれる冒頭部から、独特の言葉遣いと擬音語の多さが生むリズム感と、事件の真相がいつ明かされるかへの興味が先へ先へと引っ張っていってくれます。奇書やら読んだら気が狂うやら言われている作品ですが存外リーダビリティい…

一言感想まとめ

アガサ・クリスティ ゼロ時間へゼロ時間へ (クリスティー文庫) 殺人が起こる決定的な「ゼロ時間」。その前には様々な出来事が積み重なった結果、その瞬間へつながっていくはず。その過程を描くミステリが本作、ということになります。クリスティの他の作品で…

一言感想まとめ

ジェラール・ド・ネルヴァル 火の娘たち火の娘たち 各短編の題名が女性名ばかりなのからも分かるように、基本主題は失われた恋で、一見ごく素朴なロマンスで構成されているように見えるけど…。「シルヴィ」や「コレッラ」の印象に引きずられているのかもしれ…

安房 直子  白いおうむの森 / まよいこんだ異界の話(安房直子コレクション4)

白いおうむの森―童話集 (偕成社文庫) 甘く美しく、そして怖い童話集。作者の描く異界は夢のように優しいがゆえに不穏だ。くるくると反転する内と外(地下に広がる森、部屋のなかの野原、たもとの中のミニチュア世界、大女のスカートのひだの中に広がる風景)…

南條 竹則   怪奇三昧 英国恐怖小説の世界

怪奇三昧 英国恐怖小説の世界 南條竹則さんによる怪奇・幻想文学のブックガイド。『恐怖の黄金時代』に加筆+新原稿を加えたものだそうな。紹介されている作家はブラックウッド、マッケン、ラヴクラフト(ダンセイニ)、M.R.ジェイムズ、メイ・シンクレア、M…

殊能 将之  美濃牛 / 黒い仏 / 鏡の中は日曜日

美濃牛 (講談社文庫) 初殊能将之。美濃の山奥、病を癒やす奇跡の泉があるという鍾乳洞と、その地主一族をめぐる連続殺人事件。タイトルの美濃牛はミノタウロス、事件の起こる暮枝はクレタ、ヒロインの窓音はマドンナ+アリアドネ、と露骨にギリシャ神話モチ…

綾辻 行人 十角館の殺人

(講談社文庫)" title="十角館の殺人 (講談社文庫)" width="115" height="160" border="0" />十角館の殺人 (講談社文庫) 館シリーズ、今回初めて読んだ。海外ミステリも知らない作品いっぱいあるのだけど、国内ミステリはそれ以上に読んでない。未知の大陸で…

吉屋 信子 わすれなぐさ / ジョン・ファウルズ マゴット

わすれなぐさ (河出文庫) 女学生三人の友情の行方を描く少女小説。昭和初期の作品なので大正浪漫の香りが。少し擬似恋愛めいた雰囲気を漂わせる人間関係がおいしいです。ありがとうございます。 キャラクターとしてはやっぱり陽子ちゃんの自由奔放ぶりに目を…

一言感想まとめ

ジョージ・オーウェル 一九八四年 一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫) いつか読もうと思いつつずるずると先延ばしにしてたのをようやっと読んだ。希望のないストーリーながらシンプルな構成と筆致は思いの外読みやすい。特に第三部~ラストはそれまで淡々…

庄野 潤三 陽気なクラウン・オフィス・ロウ

陽気なクラウン・オフィス・ロウ (講談社文芸文庫) 半分はイギリス滞在について、半分はチャールズ・ラム(とその著作のエリア随筆)についての紀行文学。あまりあらすじとか確認せず、イギリス旅行記のつもりで借りてきたのでラムについての記述の多さには…