ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

光嶋 裕介 幻想都市風景 / ジョン・クロウリー エンジン・サマー

光嶋 裕介 幻想都市風景


 珍しく画集など。人の気配があまりしない都市・建築の絵は好き。まわりに生きた他人がたくさんいるのは煩わしいが、全く人の手が入っていない自然の中は不安・寂しい、というダメっぷりを許容してくれますし…。
 この『幻想都市風景』には、実際にある建築物の写生・それらを寄せ集めてひとつの空間におさめた絵・架空の建築の絵、という流れで作品が収められている。どの絵もとても静か。時が止まったかのような。写生のタッチはむしろ荒々しいように思えるのだが。特に架空の建築の絵は、細部を見ていると実際ここにいたらどんな風景が見えるのかなぁと想像が膨らむけれど、引いて見るとその静けさに胸を打たれる。




ジョン・クロウリー エンジン・サマー


 遠い未来、文明崩壊後の世界。過去の文明の知識はすでにおぼろげになり、人々はゆるやかな共同体の中で牧歌的に暮らしている。その集落のひとつ、リトルビレアで育ったてのひら系の少年“しゃべる灯心草”が天使に語る、彼の旅の物語。
 世界観、イメージの美しさはもちろん、淡々と穏やかな語りに耳を澄ます心地よさがとても好き。“しゃべる灯心草”の語りは彼自身の感情・自意識をあまり感じさせないが、彼の優しさ人となりは確かに伝わってくる。曇りのない視線、瑞々しい感受性、真っ直ぐな強さ。好きなのに何故か読み終わるまですごく時間がかかったのは、無意識のうちに一文一文じっくり読んでたからなんだろうな。後々、彼の語りを聞き彼の体験をともに追うことの意味が明らかになった時、ああ、と思った。この語りだからこそあの構造が生きてくるんだなぁ…。謎だらけだし、起伏にはとぼしいし、一気には読みにくいと思うけど、ぜひ途中で投げ出さずに最後まで読んで欲しい作品。