ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ロブ=グリエ 消しゴム



 殺人の捜査のために派遣されたヴァラス、しかし遺体も犯人も見つからず、ろくな証人はいない、警察署長にもあまり相手にされない。ほしがっている高級消しゴムも見つからない。というなんとも悲しい状況のままぐるぐると街を歩き回る。しかし彼の知らないところで事態はそれなりに動いていて、最後、ギリシャ悲劇のように宿命的な結末を迎えることになる。
 ヌーヴォー・ロマンの旗手ロブ=グリエの代表作。ヌーヴォー・ロマンとは新しい小説という意味だけど、解説によるとそれまでの人間中心の実存主義サルトル、カミュなど)に反抗する形で生まれた、人間の主観への信頼を批判する姿勢を打ち出した作品、という意味で「新しい」のだそうな。あと「謎解きを宙吊りにする謎解きミステリー」というパターンを完成させたものでもあるとか。オースターのニューヨーク三部作が影響を受けているってのは確かに分かるなぁ。ここまで受け売り。解説くわしいので助かる。
 私の感覚的な感想としては読んでてピントが合わない感じが気持ち悪い。これは私の頭の問題だけでなく、おそらくそういう風に計算されている、というところもあると思う。時間と語りがばらばらなので分かりにくいってのもあるけど、同じような繰り返しが決して同じではなく、世界(もしくはオブジェ)に騙されてる気がする、しっくりこないこの感じ。カフェの主人と酔っ払いもなんか怖いしな…。こんなうすら寒い小説だとは(ほめてる)。結末は文章も合わせて好き。 オブジェのようにぷかぷかと揺られる、魂の抜けた人間たち。