ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

フリオ・リャマサーレス著  木村 榮一訳 黄色い雨

フリオ・リャマサーレス著  木村 榮一訳 黄色い雨


 スペインの山奥の廃村アイニェーリェ村、かつての村人がみな逃げるように去った後もただひとり村にとどまった男の孤独な日々。飾らない静かな文章から滲み出すのは死と狂気の気配、狂気と言っても、何かが爆発し突き抜けてしまう類のものではなく、いつの間にか境界線を見失ってしまったという類のものだ。生者と死者、現実と記憶。死者はいつ死ぬのだろうか。短い断片を連ね、時系列を意識せず過去の回想が挿まれていく形式のせいもあってか、気がつけばこちらも亡霊のようにアイニェーリェ村をさまよっているような心地がしてくる。しかし実際壮絶な日々のはずだけれど、哀しみと静謐に洗われるとこうも美しくなるのか。
 「黄色い雨」だけだと孤独と静謐が強く印象に残るが、同時収録されている短篇「遮断機のない踏切」「不滅の小説」を読むとこれは執着の話でもあったんだなと思う。変わることのできない不器用な人達へ向けられた視線のそれとない優しさ。