ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

伊藤 計劃  ハーモニー


伊藤 計劃  ハーモニー


「大災禍」という世界的危機以降、人類は人命・健康を何よりも優先し病気のないユートピアを築き上げた。善意に溢れたというよりも善意しか許されない、個々人の生命は社会的リソースとして大事にされる社会で自殺を選んだ三人の少女。うち実際に死んだのは一人だけだったはずだった。生き残ったうちの一人、霧慧トァンは再度世界を襲う謎の危機に死んだはずの少女が絡んでいることに気づく。ユートピアの到達点のその向こうを描くSF。
 ようやく伊藤計劃を読んだけれども、これは読んでよかった。やっぱり意識がテーマとして絡んでくるSFは好き。意識の価値を問うという点ではブラインドサイトを思い出すけれど、ハーモニーの(物語的に)おもしろい点は人類社会の到達点の一つとして人類自身がこの問題を提示し選択するところだなあ。あとがきインタビューで本人も言っていた通り、ロジックをベースに色々乗せて作品を作っている感じで、全体に淡々とした印象がありするっと読んでしまいそうになるけれど、展開も結末もなかなかにドラスティックだ。読了後色々と思考がまとまらなかった。三人の互いへの思いも、考え出すときりがない。