ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

一言感想まとめ

ウィリアム・アイリッシュ 『幻の女』

 適度な緊迫感とスピードで読ませる、お手本のようなストーリー展開。よく出来たサスペンスミステリです。しかし今この作品が評価され続けているのは、プロットの面だけではないはず。古い作品なので、プロットの斬新さはどんどん失われていくわけですが、一方風俗の描写などではその古さが大きな魅力。当時のニューヨークの情景がまざまざとよみがえる。有名な冒頭の文のとおり、苦さと甘さが入り交じる叙情性が好みでした。



皆川博子 『水底の祭り』

 初期の短篇集。日本が舞台の皆川作品は生臭さすぎることがあって実は苦手で、これは苦手な方にかなり振り切っている短篇集だったので読みだしてから少し後悔した。読み始めると途中でそう簡単に浮上できそうもないのでなんとか最後まで読みきりましたが。情欲やら執念やらが絡まり合い腐敗していくどうしようもない退廃の世界に突き落とされる嫌悪感と、しかし魅惑されないでもないその危うさ。怖い人だなぁ。



山口 芳宏  『雲上都市の大冒険』

 表紙はスチームパンクっぽいラノベって感じなのですが、いざ読んでみると昭和の鉱山舞台の探偵小説、鉱山都市の描写がしっかりしていていいです。ただしミステリと思って読むと多分拍子抜けすると思う。会話、キャラクターはライトで読みやすい。少年少女に戻ったつもりでわくわく楽しみながら読みたい。探偵役が二人出てくるけど、連携プレーはあまり見られないのが残念。