ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

一言感想まとめ

アガサ・クリスティ ゼロ時間へ


 殺人が起こる決定的な「ゼロ時間」。その前には様々な出来事が積み重なった結果、その瞬間へつながっていくはず。その過程を描くミステリが本作、ということになります。クリスティの他の作品でもそれは描かれてるのでは?と思うかもしれませんが、これはまた別格。
 お家芸な人間関係模様、鮮やかな騙し方、いつものクリスティといえば確かにそうなんだけど、それのバージョンアップ版という感じ。力入ってます。緊迫した展開とクライマックスに向けての加速感もいい。


チャールズ・ラム エリアのエッセイ


 庄野潤三『陽気なクラウン・オフィス・ロウ』から。偏愛とおどけた姿勢に親しみが持てる。焼豚論がおいしそう、特にパリパリの皮とか…。なんだけどイギリスで皮付きローストポークが出た時に皮も食べてみたらすごく固かった哀しみ。子豚じゃなかったからかな…?



吉田 篤弘 それからはスープのことばかり考えて暮らした


 同作者の『クラウド・コレクター』や『水晶万年筆』では言葉遊びの多いとぼけた文章がちょっと落ち着かない、という印象だったけれど、この作品はファンタジー要素が薄いせいか文章も落ち着いていて読みやすい。意外にこの人の作品は日常ものの方が合うのかもしれない。日常ものといっても現実の日常の鬱陶しさはなくて、程よい距離の人間関係はうらやましいことこの上ないし、職がなくてもなんとなく生きていけそうな気がするし、あの街ではこの世界よりもきっと重力が軽いんだろうな。移住させてください。