ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

オトフリート=プロイスラー クラバート / ジャン・コクトー 恐るべき子供たち




 古い伝説をもとにしているだけあって、力強い物語と死の暗い影、そして神秘性に魅了される。今読んでも十分以上に面白かったけれど、いい意味で、子供の頃に読んでいればと思った本だった。ちょっとトラウマになるかもしれんが強烈な印象を残したのでは。親方から逃げられない絶望感や、墓場のシーンはさぞ怖かったろうと思う。
 子供の頃の読書体験が鮮烈なのは、子供が怖がりだからってのもおおいに影響してるんだろうな。怖かった本は忘れない。今となっては、親方の不気味さより墓場より水車場の労働環境のブラックさの方におののくという始末である。





 一言で言うと恐るべきお姉ちゃん。いや姉キャラは好きだけどこれは…。序盤のエリザベートにはちょっとときめいてたけど話が進むにつれて冷や汗が。
 子供部屋に閉じこもって、お互い憎しみあい依存しあうポールとエリザベート。姉弟の感情の嵐が吹き荒れる閉じた子供部屋は、乱暴にゆすられたスノードームを思わせる。かわいらしすぎるたとえかなとも思うんだけど、子供部屋の舞台装置じみたところとか、ままごとをしているような非現実感とか、そんな感じ。後者については、彼らと心理的距離がありすぎて他人事に見えているってのもあるかも。あと、子供部屋は彼らの世界の殻だけれど、その殻が意志を持っているというか、彼らの運命に関与しているような気さえした。彼らと彼らをとじこめる殻と合わせて一つの完成体なのであり、それを崩壊させない限りガラスの中からは永遠に取り出せない。
 読んでいる最中は彼らが表に吐き出す感情ばかりが目についてしんどかったが、少し時間がたってから振り返ると浮かび上がってくる物語の構造や特異な雰囲気には惹かれる。後半の熱に浮かされたかのような、半ば夢のなかを歩いているようなあの感じ。濃密な劇を観たなぁという感慨が。白い雪球から始まり、黒い丸薬に収束するイメージは鮮烈。
 古典新訳文庫の方はコクトーのイラストが多数のせられているそうなので、そっちで読んでもよかったかなぁ。