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ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

ジョン・ファウルズ 魔術師 上・下


ジョン・ファウルズ 魔術師 上・下





 恋人アリスンから離れるためにギリシャの島で英語教師として就職したイギリス人青年ニコラス。謎の老人コンヒスやまるで過去から抜け出してきたような美女との出会いから、彼は謎のゲームに巻き込まれていく。サスペンスと恋愛とオカルトと哲学がごたまぜになった怪作。
 …前読んだ『マゴット』もそうだったけれど、なんとも言葉にしにくい読書体験。まわりに迷宮が張り巡らされていく中、やっとそこから連れ出してくれる糸を見つけたと思いきや、その糸も途中でふつりと切れ、気がつけば周りは更地だった、みたいな…。語り手ニコラス君は人間不信になりかかるけど、こっちだって物語不信になりかねない。しかし作中の言葉とは裏腹にファウルズの作り出すフィクションの強度はすごいのだよな。
 私は「自己中心的プレイボーイニコラス君が強烈なイニシエーションをくぐり抜けるサバイバル物語」という線をメインに読んでましたが、筆者の哲学が盛り込まれた作品でもあります。最もメインとなるテーマは自由、馴染みのある言葉のはずですが、ファウルズの手にかかると(私にとっては)とても遠い言葉になる。十分の一も分かってる気がしない。価値観からの解放、他者からの解放、全き自分の実現的な…?しかしこれらの要素なら、自由を語るコンヒス自身がむしろ絡め取られている気がするんだけれど。すべてのものから距離をとる、中間地点としての自由は、すべてのものからがんじがらめにされて動けないということでもあるし。そして自由とからめて愛の話でもあるわけですがこっちはもうお手上げ。最後…。
 あと序盤のドロドロ具合と三角関係でのニコラス君のあれっぷりには正直フラストレーションたまったのですがその分後半のカタストロフィは楽しめる。若干かわいそうな気すらしてくる。というわけでご安心ください。