ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

一言感想まとめ

ジェラール・ド・ネルヴァル 火の娘たち


各短編の題名が女性名ばかりなのからも分かるように、基本主題は失われた恋で、一見ごく素朴なロマンスで構成されているように見えるけど…。「シルヴィ」や「コレッラ」の印象に引きずられているのかもしれないが、全体に、時間軸も人物も分裂し気がつけば物語の中心には幻像しか残ってない、みたいな妙なとらえがたさがある。実際に分裂してるわけではないのですが。あと、「ヴァロワの民謡と伝説」にはいっている「魚の女王」の話は無垢な壮大さがあっておもしろかった。

アレクサンドル・ジュマへ アンジェリック シルヴィ ヴァロワの民謡と伝説 ジェミー オクタヴィ イシス コリッラ エミリー 幻想詩篇




円城 塔 オブ・ザ・ベースボール


 「オブ・ザ・ベースボール」と「次の著者につづく」の中編二つ。前者は相当にわけのわからない状況ながら、ユーモアもストーリーも(それなりに)あり、ラストも妙な感慨があるので読みやすく楽しかった。問題は後者。頭がぐらぐら。全くもってよく分かんない。点から点へいくつもの分岐ができて蜘蛛の巣のように迷宮をつくってはその端から崩壊していくイメージ。



津原 泰水  たまさか人形堂それから


 たまさか人形堂物語の続編。前作より日常系に近づいて、キャラクター達の関係性にライトが当てられている感じ。文章もよりのびやかに軽快になって、安心して読める。心地よさを求めるならこっちだなぁ。市松人形の話のラストが好きです。



河野 一郎編訳 イギリス民話集


 岩波の国別民話集二冊目。むかし話、ふしぎな話、こっけいな話の3つに分けられていて、そのうち「ふしぎな話」はイギリスらしい妖精や幽霊の話。ただ、ロマンティックとかかわいらしいというよりも、ほんとにただふしぎな話としか言いようのない味わいの話も多かったような。こっけいな話のレパートリーはさすがジョークの国。送りびんたの話がシンプルで好き。
 あと、スペイン民話集の最初の話もなかなかに衝撃だったけどこれの最初の話も違うベクトルで結構きた。人骨でスープですか。それもそんなにためらいがなさそうなところがまた。墓から人の骨取ってきてスープにする、というのは他の話でもあったので当時実際に行われてたのかな…骨がごちそうってところに暗黒っぷりをひしひしと感じる…。