ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

一言感想まとめ

アンナ・カヴァン 『アサイラム・ピース』


 カフカを思わせる不条理と不安、寄る辺のなさ。悲鳴になる一歩手前の、それでも抑えながら語る声を美しいといっていいものかどうか。装丁は文句無しに美しいが。カフカにはユーモアのクッションがあったが、カヴァンにはそれがない分、刃がむき出しのまま。辛い。



P.L.トラヴァース 『公園のメアリー・ポピンズ』

 
 メアリー・ポピンズ最後の一冊。時間軸的には前三冊の間のどこかで起こったお話、という設定ですが。これで終わりとは悲しい…もっとないの…。とにかく居心地が良くて好きな作品なので、いくらでも読める気がする。
題名の通り、公園を舞台にした話が多く、必然的に公園番の出番が多い。公園番の印象がちょっと変わった。メアリー・ポピンズのツンとデレの割合は相変わらず素晴らしいですね!好きです。



A.A.ミルン 『赤い館の秘密』


 クマのプーさんでお馴染みA.A.ミルンのミステリ。青年二人のコンビが微笑ましい。一応探偵役とその助手という役柄ではあるものの、対等な友人関係が爽やか。読む前はカバー絵からしておじ様と明朗活発なお嬢さんのコンビ探偵かと思ってたら全然違った。ミステリーだ…。上品なユーモアとほのぼの感も魅力。小学生の甥っ子が「ぼく、翻訳ミステリ読もうと思うんだ…」とか言い出したらリストアップしたい類の作品です。ただ、残念ながら訳は古い。
トリックは…まあ大らかな時代の話だというのを頭にいれとかないとダメですね



チャイナ・ミエヴィル 『都市と都市』


 特殊な関係にある二つの都市国家間で起きた殺人事件。片方の都市の警部補、ティアドールは事件を捜査するうちに二つの都市の歴史と秘密に足を踏み入れていく。
 SF設定+ハードボイルド警察小説。この特異な設定で長編、それも警察小説を書ききったという点はすごいと思う。私なら開始五行で「あ、やっぱこれ無理だわ」って書くのをやめる。というか書き出さないか。
 特異な設定にもかかわらず特に説明がされるわけでもないので序盤はちょっと辛かった。徐々にどういうことかつかめるようになってくるのはそれはそれで楽しいけどね。中盤の展開は楽しそうでわくわくしたのだが、結末は落ち着くとこに落ち着いちゃった感じで個人的には残念。二つの都市の設定、リアルに書かれてるとはいえとんでも感が残ってないわけでもないし、それならもっと突き抜けちゃっても良かったんじゃないかなと