ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

エドワード・ケアリー 望楼館追想


 社会からはみだした、奇妙な人々ばかりがすむ「望楼館」。そこに新たな住人がやってきたことで、望楼館に変化が起こっていくが…。
 タイトルと皆川博子解説に惹かれて借りてみたものの、辛い読書だった…。簡単にあらすじを書くとなんかほっこり系のように見えるけど、途中の過程はなかなかしんどいものがあります。最後まで読み通せたのは文体の魅力によるものが大きいかも。淡々と簡潔な文体は時に残酷で時に哀しく、ここだけははっきり好きと言える。
 どこが辛いかというと、奇妙な住人達のみじめさ哀れさを何のフィルターもかけずに淡々と描いているところ。自分自身の醜悪さを暴かれているようで。彼らはよくあるようなちょっと変わってるけど実は良い人、レベルではなく、はっきり言ってしまえば異様な人々。他者に干渉されることを好まず望楼館のそれぞれの部屋にこもり、ただ日々が過ぎ去るのを待っているかのように見える。しかし、彼らの閉じ込めていた過去を蘇らせ受け入れさせることによって、彼らは前を向いて歩き出せるようになる。はじめ、彼らの問題は環境のせいではなくあくまで彼ら自身の責任だと暗に語っているかのようなどこか突き放した印象を受けていたのだが(そしてそれがまた辛かった)、彼ら自身の問題だからこそ自身の力で解決し歩き出せるようになるんだとちょっとしんみりした。
 こうして次々と住人たちは変わっていく。語り手である主人公フランシスをのぞいて。このフランシスがまた刺さるキャラで辛い。蝋人形のふりをするのが仕事で、常に純白の手袋をはめ、他人の愛したものを盗み取ってはコレクションし、秘密の場所に大事に仕舞いこむ彼。望楼館の住人たちに共通する、他人との接触を嫌う、不動性(変化のなさ)といった特徴の権化のような人間ですね。私もまぁそっちがわの人間なので、同族嫌悪が…。うおおさっさと目覚めろ!勇気を持て!間に合わなくなっても知らんぞー!と自分を棚上げして叫びたくなる。はぁ。
 再生の物語としてはスタンダードな展開ではあるものの、強い印象を残す本でした。読み終わったときは悪夢から抜け出せたかのような安堵を味わった。