ゆうれい読書通信

幻想文学、ミステリ、SFなど

アルジャーノン・ブラックウッド 人間和声 / ポール・ギャリコ 幽霊が多すぎる

人間和声 (光文社古典新訳文庫) 夢見がちな青年、スピンロビンは“勇気と想像力ある秘書求む。当方は隠退した聖職者。テノールの声とヘブライ語の多少の知識が必須”という謎の求人に応募し、山奥の屋敷に住み込むことになる。雇い主のフィリップ・スケール は…

アーシュラ・K. ル=グウィン   コンパス・ローズ

コンパス・ローズ (ちくま文庫) ル=グウィンのSFを読むのは二冊目。前に読んだのは『なつかしく謎めいて』。短篇集好きなのでつい短篇集に手を出してしまう。ハイニッシュサイクルもそのうち読まなくては。 この『コンパス・ローズ』は70年代あたりの作品が…

安房 直子  白いおうむの森 / まよいこんだ異界の話(安房直子コレクション4)

白いおうむの森―童話集 (偕成社文庫) 甘く美しく、そして怖い童話集。作者の描く異界は夢のように優しいがゆえに不穏だ。くるくると反転する内と外(地下に広がる森、部屋のなかの野原、たもとの中のミニチュア世界、大女のスカートのひだの中に広がる風景)…

南條 竹則   怪奇三昧 英国恐怖小説の世界

怪奇三昧 英国恐怖小説の世界 南條竹則さんによる怪奇・幻想文学のブックガイド。『恐怖の黄金時代』に加筆+新原稿を加えたものだそうな。紹介されている作家はブラックウッド、マッケン、ラヴクラフト(ダンセイニ)、M.R.ジェイムズ、メイ・シンクレア、M…

殊能 将之  美濃牛 / 黒い仏 / 鏡の中は日曜日

美濃牛 (講談社文庫) 初殊能将之。美濃の山奥、病を癒やす奇跡の泉があるという鍾乳洞と、その地主一族をめぐる連続殺人事件。タイトルの美濃牛はミノタウロス、事件の起こる暮枝はクレタ、ヒロインの窓音はマドンナ+アリアドネ、と露骨にギリシャ神話モチ…

綾辻 行人 十角館の殺人

(講談社文庫)" title="十角館の殺人 (講談社文庫)" width="115" height="160" border="0" />十角館の殺人 (講談社文庫) 館シリーズ、今回初めて読んだ。海外ミステリも知らない作品いっぱいあるのだけど、国内ミステリはそれ以上に読んでない。未知の大陸で…

吉屋 信子 わすれなぐさ / ジョン・ファウルズ マゴット

わすれなぐさ (河出文庫) 女学生三人の友情の行方を描く少女小説。昭和初期の作品なので大正浪漫の香りが。少し擬似恋愛めいた雰囲気を漂わせる人間関係がおいしいです。ありがとうございます。 キャラクターとしてはやっぱり陽子ちゃんの自由奔放ぶりに目を…

一言感想まとめ

ジョージ・オーウェル 一九八四年 一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫) いつか読もうと思いつつずるずると先延ばしにしてたのをようやっと読んだ。希望のないストーリーながらシンプルな構成と筆致は思いの外読みやすい。特に第三部~ラストはそれまで淡々…

オトフリート=プロイスラー クラバート / ジャン・コクトー 恐るべき子供たち

クラバート 古い伝説をもとにしているだけあって、力強い物語と死の暗い影、そして神秘性に魅了される。今読んでも十分以上に面白かったけれど、いい意味で、子供の頃に読んでいればと思った本だった。ちょっとトラウマになるかもしれんが強烈な印象を残した…

パーシヴァル・ワイルド 検死審問ふたたび

検死審問ふたたび (創元推理文庫) 傑作ユーモアミステリ『検死審問―インクエスト』の続編。前作は展開の鮮やかさ、語りの上手さ、軽妙なユーモアと魅力たっぷりの小気味いい作品だったけど、続編も期待に違わず素晴らしかった。特にユーモアに関しては前作を…

カレル・チャペック イギリスだより / フランシス・アイルズ 殺意

イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫) 初チャペックが旅行記というのもどうなんだろうとちょっと思ったけど、おもしろかったので問題なし。ユーモアと愛情(そして皮肉)が詰め込まれた愛すべき作品。ロンドンや都市部について…

イーヴリン・ウォー 大転落

大転落 (岩波文庫) 初イーヴリン・ウォー。ごく基礎的な英文学史でも名前の上がってくる作家だと思いますが、なんか古典的というイメージがあって「読むものなくなったら読んでみてもいいかも」候補にいれていた。つまり九割方読まないであろう候補ですね。…

庄野 潤三 陽気なクラウン・オフィス・ロウ

陽気なクラウン・オフィス・ロウ (講談社文芸文庫) 半分はイギリス滞在について、半分はチャールズ・ラム(とその著作のエリア随筆)についての紀行文学。あまりあらすじとか確認せず、イギリス旅行記のつもりで借りてきたのでラムについての記述の多さには…

ケイト・アトキンソン 世界が終わるわけではなく / カルロス・ルイス・サフォン 天使のゲーム 上・下

世界が終わるわけではなく (海外文学セレクション) ギリシャ神話やポップカルチャーを下地に、人生の生々しさや苦さが織り交ざるシュールでふわふわした短編たち。ケリー・リンクやケヴィン・ブロックマイヤーと似た系統の作品ですね。読み終わってみると、…

キース・ロバーツ パヴァーヌ

パヴァーヌ (ちくま文庫) エリザベス1世の暗殺により、ローマ・カトリックの支配下に置かれたイギリス。教会により科学が弾圧され異端審問がいまだ続く中、反乱の動きが起こる。 手に汗握るサスペンスフルなスチームパンクSF…かと思いきや意外に渋い。このあ…

田中ロミオ 人類は衰退しました④ / 小田雅久仁 本にだって雄と雌があります

人類は衰退しました 4 (ガガガ文庫) 3巻はちょっと気が滅入りそうだったので飛ばして先に4巻。気力が復活したら3巻も読むから…回復する見通しはたってないというか気力がないのが平常だけど… 4巻は気楽に読むのにうってつけ。「妖精さんの、ひみつのこう…

津原泰水 ルピナス探偵団の憂愁 / 皆川博子 倒立する塔の殺人

ルピナス探偵団の憂愁 (創元推理文庫) ルピナス探偵団二作目。これを読みたいがために当惑(前作)を買ったクチです。ジュブナイルらしい「当惑」にくらべ、「憂愁」は戻らない青春の回想という切なさが全編に満ちていてまた趣が違う。冒頭である登場人物の…

アガサ・クリスティ 五匹の子豚

五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) 才能ある画家だった夫を毒殺し獄中死した妻。誰が見ても有罪間違いなしの事件だったが、16年後、ポアロのもとに彼らの娘が訪れて母の無罪を明らかにしてほしいと依頼する。当時の関係者5人の証言と手記からポア…

W.B.イエイツ ケルトの薄明

ケルトの薄明 (ちくま文庫) イエイツが集めたケルトの伝承などを、イエイツ自身が書き記したもの。完全なフィクションではなく、実際に起こったと言われている不思議な話(もしくはそれを語り継いだもの)といったものが多くおさめられている。そのせいか、…

ジュール・シュペルヴィエル 海の上の少女

海の上の少女―シュペルヴィエル短篇選 (大人の本棚) 不思議な光をたたえるシュペルヴィエルの短篇集。強いて言うなら童話に近い雰囲気の作品が多いが、その喪失感とさみしさは透明ではあるものの子どもが読むにはほろ苦い。 シュペルヴィエルは二つの祖国、…

エドワード・ケアリー 望楼館追想

望楼館追想 (文春文庫) 社会からはみだした、奇妙な人々ばかりがすむ「望楼館」。そこに新たな住人がやってきたことで、望楼館に変化が起こっていくが…。 タイトルと皆川博子解説に惹かれて借りてみたものの、辛い読書だった…。簡単にあらすじを書くとなんか…

一言感想まとめ

アンナ・カヴァン 『アサイラム・ピース』アサイラム・ピース カフカを思わせる不条理と不安、寄る辺のなさ。悲鳴になる一歩手前の、それでも抑えながら語る声を美しいといっていいものかどうか。装丁は文句無しに美しいが。カフカにはユーモアのクッション…

一言感想まとめ

小沼丹 『黒いハンカチ』黒いハンカチ (創元推理文庫) 若い女学校の教師ニシ・アズマがその観察眼と機転で小事件を解決するミステリ短篇集。上品な茶目っ気と静謐さをゆるゆると楽しむ。ミステリというよりも小沼丹の語りの魅力を目当てに買ったのだが、ミス…

ジーン・ウルフ デス博士の島その他の物語

デス博士の島その他の物語 (未来の文学) ウルフの作品は、丁寧に読み込むおもしろさはもちろん、素朴な読みでも充分以上におもしろいのがすばらしい。「ケルベロス第五の首」を読んだ時にも唸らされたが、この「デス博士の島その他の物語」もおもしろかった…

由良君美 椿説泰西浪曼派文学談義 (平凡社ライブラリー)

椿説泰西浪曼派文学談義 (平凡社ライブラリー) 読了日:2/23 知識の乏しい私には名前しかしらんレベルの人がいっぱい出てきてあっぷあっぷ(特に絵画・音楽についてはお手上げ)、ではあったものの小気味いい文章のおかげで読み通せた。浪漫派の夢、ユートピ…

一言感想まとめ

ショーン・タン 『アライバル』アライバル 読了日:1/27字のないモノクロの絵本。ひとり異国に移住してきたお父さんが少しずつ異文化に溶けこみ生活していく様子を描く。異国の描写がわくわくする。 クラフトエヴィング商會 『らくだこぶ書房21世紀古書目…

津原泰水 ルピナス探偵団の当惑

ルピナス探偵団の当惑 (創元推理文庫) 読了日:1/26 仲良し女子高生トリオ+男子高校生の四人組、ルピナス探偵団が解き明かす青春ミステリー。出だしこそとてもジュブナイルな感じですが、謎は結構本格的。一話目は「なぜ犯人は冷めたピザを食べて帰ったのか…

一言感想まとめ

アントニイ・バークリー 『第二の銃声』第二の銃声 (創元推理) (創元推理文庫) 読了日:1/3 これまたおもしろかった。色々とにやにや。郊外の邸宅で招かれていたお客さんたちの余興の最中に事件発生、という古き良き英国ミステリを楽しんでいたと思ったら終…

牧野信一 風媒結婚 (日本幻想文学集成)

本・雑誌牧野信一 風媒結婚 (日本幻想文学集成) 読了日:2/12 センター現文で話題になってたマキノさん。といってもこの本には出題された「地球儀」ははいってませんが…岩波の『ゼーロン・淡雪』だけ以前に読んだことがあって、日本の土俗的な情景の中にふら…

スタニスワフ・レム  泰平ヨンの航星日記〔改訳版〕

泰平ヨンの航星日記〔改訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF レ 1-11) 読了日:2/11 宇宙を飛び回る泰平ヨンが巻き込まれたとかく珍妙なできごとをつづった日記、という体裁のユーモアSF連作短編集。レムはソラリスしか読んだことがなかったので、ユーモアSFといっても…